先日、24日に自民党の防衛省改革小委員会が、他に先駆ける形で提言をまとめた。
「他に先駆ける」と言った「他」とは、防衛省内での改革チームと、そして官邸に置かれている防衛省改革会議、この二者のこと。
同一(と考えられる)目的について、このように複数の機関が、段階的にではなく同時に作業を行うというのは、どうなんだろうと思うが、現に、これまでに幾度か、その間での綱引き的な状況を見ることもあったように思う。
そのあたりは措くとして、
今回は、この自民党が、つまり文字通り「党」側の立場でまとめた提言について、思うところを少々。
便宜のため、文書を貼っておくけれど、むろん自民党HPから入手できる。
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(ひとつ拡大するとちょうどいいと思う)
僕が特にコメントしたい部分のみ、以下、「提言」の記載順。
■有事・緊急事態に対応するための訓練・シミュレーション
総理・関係閣僚参加のシミュレーション訓練の実施の必要性については同感。
ただし、おそらくこの提言が意識している例えば米国などの状況と比べると、政権の任期あるいは持続期間の不安定さから、ある程度、国会議員が環視できるような工夫があると良いかもしれない、といったことを考えた。
この「環視」とは、言い様はさまざまで、
僕の主たる意図的には、議員の教育機会として、将来の政権担当可能性に備えたものとして、といったところだが、
他に、あるいは国会の政府監督の一環として、と考えることもできる。
ところで、こうしたシミュレーション訓練を行う上では、
加えて、各関係大臣の訓練はもちろんのことながら、事務局的スタッフたちの訓練は、一層重要だ。(就任間もなく覚束ない大臣たちを補佐しなければならない)
■国会議員の秘密保全に関し、国会法を改正するなどそのルールを確立する。
これは必須どころか、防衛省改革のトータルの話以前の焦眉の急だ。
どのような意図での用語か不明だが、「ルール」などという甘いものであってはならない。(「ルール」が甘い言葉かどうかは一意に決まらないが、この文脈で僕個人は、そのように感じる。)
この点は、シビリアンコントロールを真に機能させるためには絶対的に必要なステップだと思う。
公務員として自衛隊員、自衛官が服している守秘義務が、国会議員に対して厳し過ぎる要求だということはないはず。
また、国内でのシビリアンコントロール上の問題のみならず、対外的信用の面においても喫緊の課題だと思う。
■防衛大臣の補佐体制の強化(防衛参事官制度など)
従来の防衛参事官は、通常、本配置職との兼務であり、大臣の補佐に専従できるような環境ではない。
また、当然ながら全て防衛省職員であって、いわば防衛省内部の視点にしか立てない場合が多くなるのはやむを得ない。
そこで、ここに提言されているような、補佐官の設置、さらに補佐官への民間からの起用ということは、たいへん有効であろうと思う。
ざっと僕の見るところでも、防衛について優れた識見を保有する民間有識者は多く存在する。
■防衛省組織の在り方の見直し
(内局と幕)
内局と各幕の関係について、特に部隊運用に関わる機能を一元化することは、きわめて有効な施策と思う。
本提言では、内局の運用企画局を廃止して統幕に統一するとのことだが、妥当だと思う。
また、内局への自衛官の配置、幕への文官の配置についても、そうあるべきだと考える。
ちなみに、自衛官が政治向きのことを種々云々するのは、仮に必要な場合であっても相当程度に節度を持つべきと考えるが、
逆に、省の文官職員には、自衛官、諸国の軍人と同等の識見で軍事マターを扱える者が一定程度存在すべきだと思う。
これは防衛省での人事・教育計画で考慮されるべきだが、戦略・戦術の専門家であるところの文官は、絶対に必要だ。
そして、当然ながら、そうした経歴管理で育成された職員が相当数、本提言にあるような、文官・制服混合の運用企画部門に配置されているのが理想的だ。
この種の議論をしていても、一般的に、制服組は軍事の専門だから、といったことがよく言われるが、
しかし、
文官であっても、防衛省の、それも運用部門に配置されている者が、軍事の専門家でないということでは困る。
制服組は軍事の専門云々ということは、ある種、軍事のことは自衛官でなければわからないといった論調をとることが多いが、
自衛官でなければわからないような軍事の識見とは、実員指揮をはじめとした指揮統率上の問題であるとか、部隊や装備品運用上のことであって、より次元の高い戦略レベル等において求められるものとは、実は制服を着た経験とは別のレベルの研鑽だ。
そうしたハイレベルな事項を扱う部署にあっては、机を並べればもはや制服も背広もない。
もしそうした場で、例えば軍事理論等について自衛官と対等に議論を戦わせられない文官がいたとしたら、それは彼の研鑽不足でしかない。
制服だからといって、別に自衛官だって、勉強していない者、研究していない者は、軍事理論などその切れ端すら知らないんだから、土俵は同じだ。
例えば米国においても、国防総省の文民というのは、普通に軍人と入り混じって米国の戦略構築、軍運用に携わっているし、新たな戦略構想を研究し、提案している文民職員は多い。(僕もこのblogで数人、何冊か紹介したことがある)
そもそもこのレベルの話とは、本来きわめてアカデミックなものだ。
日本も、そうした識見を保有した、軍事戦略等についても真にプロフェッショナルな防衛官僚を育てるべきだと思う。
本当は、合わせて、民間との交流が行われればさらに良いと思うのだが。(この交流とは、民間や学術分野からの入省ということ。あるいはプロジェクト等への参加でもいい。)
■防衛省組織の在り方の見直し
(統合司令部)
統合幕僚長の下に統合司令部を、と書かれているが、
実は僕個人は、編制上の単なる陸海空各自衛隊合同の司令部というものではなく、随時編成される統合部隊及び司令部ということを考える派だ。
統合部隊というものの性質からも、この提言で言及しているような司令部は、統合司令部と言わず、合同司令部(一例)とか自衛隊司令部(一例)等と、別称を用いた方が良いのでは、と思ったりもする。
(司令部なのに司令官無しというのも整合性いまひとつだし)
なので僕の推しは、
1案:統合幕僚長(統幕長)と統合幕僚監部(司令部でなく統幕)
2案:自衛隊司令官(統幕長あらため)と自衛隊司令部
このもとに、任務に応じて統合部隊が編成されるのがスジではないかと僕は思う。
PKO派遣部隊であれば、その統合部隊が編成されるべきだし、
とある島嶼防衛作戦であれば、その統合部隊が編成されてしかるべきだし。
平素から常時、自衛隊がまるごと一個統合部隊に編制されてるというのは…どうなんだろう。
もし各ミッション対応の統合部隊を作ったら、用語上もややこしいことになるし。
が、しかし、考えてみると、わが国の地理的な作戦範囲の狭さからすると、常に一個統合部隊(=全自衛隊)を持つ、という考え方も一理あるか、、、とは思う。
このあたり、もうちょっと研究してみる。
■迅速な情報伝達
「防衛省情報集約オペレーション室」
むろんのこと賛成だが、これまで無かったことのほうが異常だから ^^;)
ただし、「緊急的な情報を速やかに現場から連絡し」という文言からすると、おそらくは、正規の報告ルートと別ルート(短縮直結ルート)をとるんだ、というところに力点があるようだ。
その際には、該当事案の判断基準と、複数となってしまう報告系統の整備を相当にしっかり行う必要がある。
(本来は良いことではない、正規報告系統が複数化するのは。)
そしてさらには、報告ルートがダイレクトになった場合、ではそれに応じた指揮系統はどうするという念頭なのか。
指揮も現場部隊に対してダイレクトに行うつもりでいるのか。
そうなるとますます由々しいことになってくる。
今度は、そのトップレベルと、各部隊の各級司令部の間の意思疎通が余程スムーズに厳密に維持されないと、現場部隊では複数の命令を受け取ることになり兼ねない(そうした事態は容易に起こるだろう)。
先般の事故等を受けての改革論議、本提言においても、この件り、羹に懲りて膾を吹くといった面も推察されるが、
僕は、集約センターさえ正規に整備されれば、従来の指揮系統による報告で十分に情報は速やかに伝達されると思う。
そしてその情報を受けての指揮も、大臣もしくは官邸レベルからの指示は指揮系統をもって下達されるべきと思う、少なくとも原則として。
もしマスコミ対策的な恐怖感や、指揮とは別の政府としての説明責任であるとかということであれば、むしろ、官邸配置の自衛官を連絡官として現地に急派するほうが有効だ。
(ちなみにこのことは、上の情報集約センターとは別に、いずれにせよ別途整備しておくべきだ。そのためにも官邸に自衛官を配置しておくべき。)
■自信と誇りの持てる防衛省・自衛隊組織の確立
この件りは、本提言においては余計だと僕個人は思う。
ただし、列記されているうち、充足率の向上ということについては、自信のもてる云々などという文脈ではなく、実際上の急務だ。
僕はことさら防衛問題を専門にするつもりは全くないんだけれど ^^;)
関心は深いのでついつい…。
ということで、自民の提言が出たところで一応のコメントでした。
ちなみに官邸が有識者を加えて行っている防衛省改革会議の議事要旨については、官邸サイトの下記ページで見れる。(意外に、今回の自民党提言ときわめて近い感じだ)
防衛省改革会議