2005年11月06日

戦略入門007


 メールマガジンの古い記事の転載です。


■ 戦略入門 vol.005 ■概論(07)
04/08/19                       ■ はじめに ■

 先週は状況分析について概観しましたが、今回は、状況の形成ということについて見てみましょう。


■ Index ■

 --戦法と状況形成--

1 戦法策定
2 シナリオ作戦(状況形成)
3 間接アプローチ



1 戦法策定

 目的(目標)を見極め、状況を分析すれば、それらを踏まえて自らの採るべき戦法を策定することになります。
 戦略という観点からみた各種戦法の基本形については、後に項目として扱いますが、今回は戦法という「形」よりも、それを生み出す「発想」・「思想」というものについて考えみていただきたいと思います。

 古来からの戦史を紐解くと、多くの素晴らしい戦法というものを見ることができますが、これらはいずれも、その時、その場所において、その敵に対して最も有効な戦い方を合理的に追求した結果であって、公式のように決まったパターンが存在するわけではありません。
 そこで、皆さんが真に優れた戦略家となるためには、それらのパターンを鵜呑みにしたり、徒に「必勝法」なるものを求めるような態度を捨てねばなりません。
 むろん、それら戦法を構成する「要素」としての公理や定理的なものは存在します。それらをいかに適用するかが戦法というものです。
 残念ながら、一般に出回っている書物の多くは、戦史に見える戦法をあたかも公式のように紹介することが多いようです。単に歴史の上で行われた名作戦の表面をなぞるのは、歴史家のすることであって、それを自らの思索的体験としようとする者のとるべき方法ではありません。

 そこで、戦史を読む場合には、その事実のみではなく、勝者のとった戦法がどのような理由によるものであり、なぜ有効であったのかということをも検討し、彼がその戦法をとるにいたった思考過程を読み解かねばなりません。思考過程をよむことこそが、よき訓練になるのです。

 発想において重要なのは、まず徹底的に合理的であることです。
 それを肝に銘じたうえで、自らの目的を忘れないこと、敵の強点と弱点、自らの強点と弱点を認識して、これをどのように利用するかという観点に立つことが大切です。

 いずれさまざまに例をひいてご説明することにしましょう。


2 シナリオ作戦(状況形成)

 最も優れた戦略家は、自らシナリオを描き、そのシナリオに沿って戦いを決着することができる者です。
 これは、戦況に対して受け身になるのではなく、常に主導的になるということでもあります。
 これでは少しわかりにくいかもしれませんね。

 敵がこれだけの兵を率いてきた、だから我々はこれだけの兵を用意しよう。
 敵はA地点のほうに進出してくるようなので、これをここで迎撃しよう・・・
 これが、戦況に対して受け身になるということです。(もちろん、状況対応を一切するなということではありませんが)

 敵は最大でもこれだけの兵を保有している。こことここで牽制を加えることによって、こちらへは最大でもこれだけしか動員できないようにしよう。
 敵はA地点から進出したいところであろうが、これをB地点から出てくるように仕向けよう。これをそこで待ちかまえて撃滅しよう。
 これが、主導的ということであり、シナリオを描くということです。

 もちろん、シナリオは描くだけではいけません。シナリオを書いたら、状況がその通りに進むように手をうたなければなりません。

 有名な長篠の合戦を考えてみましょう。
 織田信長は非常に優れたシナリオライターですが、彼は当初から、鉄砲隊の斉射によって武田の騎馬軍を討ち取ることを考えていました。ところが、そのためには鉄砲隊の陣を構築しておく必要があり、そこに敵が来てくれないことにはどうしようもないのです。双方の軍が出逢った場所で会戦を行ったり、敵の出方にあわせて臨機応変に陣を敷いて戦うというわけにはいきません。
 そこで信長は戦場を長篠と決め、あとはそこに武田勝頼が必ず出てくるように仕組むことになりました。そして決戦前夜には、「四郎めは必ずここへやって来る」とほくそ笑むのです。
 かの合戦においては、鉄砲隊の一斉射撃という新機軸の採用もさることながら、予定戦場への敵誘導ということにかけての手腕にこそ、信長の真骨頂を見ることができるのです。

 状況分析とは、相手の出方にこちらを合わせるというために行うものであってはなりません。そこから、自分の思うとおりの状況を作り出すために活用されるものでなくてはならないのです。

 「主導」とは、各国軍の戦いの原則にも多く採用されている概念です。


3 間接アプローチ

 「間接アプローチ」とは、「戦略論」の著者リデル・ハートが提唱した戦略理論ですが、中東戦争はこの思想によって戦われた典型的なシリーズでした。

 読んで字の如くではありますが、敵に指向するには直接正面から兵力をぶつけるような直接アプローチと、敵正面を避けて指向する間接アプローチというものがあります。

 結論からいうと、この間接アプローチにこそ勝利のカギがあるというのがリデル・ハートの主張です。この観点から戦史を見直すと、実に史上の名作戦というものは、ことごとく何らかの形で間接アプローチの精華であることがわかります。

 たとえば、敵のある一部隊がある場所に布陣している場合、それを正面から叩くのは愚の骨頂であり、それよりも敵の後背深いところで敵の補給路や、根拠地を攻略することにより(もちろん意表を衝いているという前提で)前線の敵を混乱に陥れるのが上策である、ということです。

 間接アプローチという立場では、「敵の攪乱(かくらん disorder)」ということが最重要テーマとなり、こちらが優勢である場合ですら、敵が攪乱状態になるまで本格的な戦闘を挑んではならないというふうに考えます。
 そこで、いかに敵を攪乱状態に陥れるかが重要なポイントとなり、敵が最も予測していない方面に進撃したり、敵の補給路を衝く、虚言の流布によって敵を心理的に混乱させる、、、など、とにかくまず敵を攪乱し、それを見届けてからそこに戦闘を仕掛けるということになります。

 間接アプローチ理論については、概説、孫子を終えた後に詳細を扱う予定です。



 今回は、やや概論に過ぎる内容になってしまいましたが、焦らず、おつきあいください。
 次回は、戦略の構成要素概観の最後の項目として、組織づくりについて概観したいと思います。

 さて、話は変わりますが、皆さんはオリンピック観戦を楽しんでいますか?
 スポーツ観戦は、戦略眼あるいは戦術眼を磨く格好の材料になります。
 技術的な美技に目を楽しませるだけでなく、戦法的な側面に注意して見てみてください。
 また、チーム競技においては、どのようなチームづくりを行ってきたか、また誰を出し誰を控えにおいているか、ということも戦略要素のひとつです。

 例えばサッカー日本チームの戦いひとつをとっても、相手にあわせ、どのようなシステムを採用しているのか、また例えば平山を先発メンバーにしていない意図は?どのような局面で投入するつもりなのか?
 イタリア戦で、松井を森崎に換えた意図は?その影響は? といった具合です。

 余談ですが私個人は、あの場面では松井に交代ではなく、松井を残し森崎を追加すべきであったと考えています。
 理由は、小野−松井の中央縦ラインが有効に働いていたこと(戦術判断)、また残り時間の少なさ、2点ビハインド、かつ負ければ後がない試合であること、さらにイタリアの防御枚数増強の状況、これらに対応すべく、通常の定石にとらわれず攻撃枚数を増加すべき(戦略判断)と考えたからです。なお追加先は左サイド、那須の前がよい(戦術判断)と考えました。

 これは一例ですが、結果にかかわらず、こうした思索そのものにトレーニング効果がありますので、どうか気兼ねなく偉そうに考えてみてください。
 より普遍的な目を養うため、さまざまな競技について挑戦してみてください。
 例え体操のような個人技でも、そこには戦略的思考対象がたくさんあります。
 こうした意味でも五輪大会は、便利ですね。

 リアルタイムだと深夜であるのが難点ですね。 ^^;)


□戦略入門
□http://www.aurora.dti.ne.jp/~rainy
posted by Shu UETA at 22:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 戦略戦術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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