2008年03月20日

職責への敬意・職責の自覚

 随分とローカルな事案なのだけれど、知事個人の知名度の故に、全国の皆さんも目にされたかもしれない。

 橋下大阪府知事に対する、女性職員の面罵というニュース。

 すでにしばらく以前、今月13日の出来事だが、大阪ではわりと大きな波紋を呼んでいる。

 13日、府知事は、若手職員対象の朝礼を開催。その場で自らの所信を述べ、府政改革に向けて若手職員の協力を呼びかけるものだったが、
 本来は始業時間前に朝礼を開こうと考えていたところ、それでは時間外の超過勤務手当がいるとの指摘を受け、始業時間の9時15分から開始となった。
 朝礼の話の中で、そうした認識について知事が批判したところ、一人の女性職員が立ち上がって知事を非難したというもの。
 (非難というが、まぁ…十分に「痛罵」といえるだろう ^^;)

 そうした報道の後、府には府民からの当該女性職員非難のメールが殺到している。

 この件につき僕が思うのは、こと大阪府のこの職員に限らず、今日の日本社会で、「職責に対する敬意」というものがいかに失われつつあるかということ。

 そして、公務員たる者の、自らの職責に関する自覚の変容ぶり。

 その二点について些か思うところを。



 ところで、事の概要は以下のようなもの。
 (最も具体的に伝えるJ-CASTニュースの記事より、記者の主観的描写を省いて事実関係を要約)
 (ちなみに、多くのメディアは当初この職員に好意的で、文面や映像で、過激な発言部分はほとんどカットして好感的に編集している。J-CASTは随分異例だ。)

 3月13日、知事は、府庁で30歳以下の職員約330名を集めての朝礼を行い、自らの所信を述べるとともに、職員の意識改革を呼びかけた。

 その中で、本来は始業時刻前に朝礼を始めようと考えていたにもかかわらず、時間外の超過勤務になると指摘を受けたため、結局始業時刻に朝礼を行うことになったということ説明し、そうした職員の認識を批判した。

 「たかだか15分、始業時間の前にみんなでこうやって、これからの大阪を考えるために気持ちを共有させようという朝礼をやるときに、それを超過勤務手当というんだったら、税金で給料を賄われている皆さん方のその執務時間、私語があったりとかたばこを吸ってたりとかいうのは、これは全部(給料から)減額させていただきます」

 さらに、「この見解に異論反論あるかもしれません。それは言ってください。是非言ってください、是非」と述べたところ、

 女性職員(30)が立ち上がり、
 「どれだけサービス残業やってると思ってるんですか!」と大きな声で反論。
 つづいて、以下のような問答があった。

職員:「あなたがやってることはね、色々言いたいこと言ったけど、それだって上司の不満があったら直接メールで言ってくださいってね、グループ長に直接物言えないような職員弱さを組織(?)しているだけじゃないですか!」

知事:「いや、だから来たやつはキチンと検討して、僕メール返信してますよ」

職員:「結局こうやって若い人だけ朝礼集めたりとか、職場のなかの団結分断して、労働者同士分断して、大阪府職員と府民を分断してるばっかりじゃないですか!」(僕の注:実際には府庁の労働者と大阪の労働者を分断と言っている)

知事:「若い人たちだけじゃないですよ!役職で課長補佐までずっと(朝礼を)やっていきますよ」

職員:「いまだって職場にいっぱい問題ありますよ。でもその問題解決できるのは、ちゃんと職場を分かっている現場の労働者だけなんですよ。私らがちゃんと議論して職場で解決していく問題じゃないですか!そういう議論は職場でやっていこうと思います!」

知事:「うん、だから、僕に対しても言って下さいよ」

職員:「あなたのすることは逆のことばっかりや!」


 知事は「非常にありがたい意見」と受け流したが、職員はテレビ各局のインタビュー取材に対して「現場のこと何も知らない」などと知事を批判し続けた。


 さて、いかがでしょう。 ^^;)


■■職責への敬意


 ちなみに僕が言いたいことは、この知事と職員の間でなされている議論の内容そのものについてではない。
 僕は府政の現場のことなど知らないし、この朝礼で前後の話を聞いていたわけでもなく、事情は何も知らない。
 この議論そのものについてもよく意味がわからないし、どちらの肩を持とうというつもりもなければ、どちらの主張がより正当かと判断することもできない。

 そうでなくて僕が言いたいのは、
 府知事に対する職員のものの言いようということ。

 それは、何も封建的な上意下達だとか、上司に対する盲従を勧めるようなことではもちろんない。

 ちなみに府民からの(当該職員に対する)抗議メールには、

 「知事にかみついた職員は世間をなめている。小さい会社なら社長にあんな偉そうな口を開いたらそれだけで首になりそうなのに。世間はもっと厳しいことを知ってほしい」

 「トップにあたる人に対しての言葉遣いが失礼」(いずれもMSN産経ニュース記事より)

 といった内容のものが多かったようだが、クビにされるから云々ということは別としても ^^;)、こうした感覚が本来は、理屈ではなく世間の巷の良識的な感覚ではないかと思う。

 知事と意見、見解を異にすることもあるだろう。
 社長の指示が常に正しいとは限らない。諫言は部下の務めだ。
 総理総裁に盲従する必要はない。
 大統領であれ批判すべきは批判しなければならない。

 だが、人間が社会を構成し組織を構成している中で、それぞれの職責に対する敬意というものは払われなければならない。
 それは個人に対するものではなく、その職務に対する敬意である。

 今日の日本社会には、「平等」ということを多分に履き違えて、あらゆる立場を引きずり下ろそうという空気がかなり色濃く漂っている。

 アメリカ合衆国ほど(権利の)「平等」ということに敏感な社会であり、組織において相当に人々がフランクな国であっても、
 たとえば大統領に対する痛烈な批判であり非難がどれほどのものであろうと、議会に大統領が訪れれば議員は起立して拍手でこれを迎える。
 これは、大統領の政策であり、ましてや個人的資質といったものに対する評価や批判非難といったこととは全く別の話だ。
 ここで示されている敬意は、政策や個人的資質がどうこうではなく、大統領という立場、職責に対する敬意だ。
 ブッシュをどんなにバカな野郎だと思っていようとも、しかし、大統領という職位に対する敬意は別のものだ。

 社長には社長の、部長には部長の、校長には校長の、職責というものがあり、それらは敬意を払われてしかるべきだ。

 やや余談となるが、付言しておけば、これは下位から上位への話に限るものではない。
 相手が職階のうえで下位にあろうと(つまり部下であっても)、それぞれの職責というものに対する敬意は払われなければならない。(このことは忘れられがちだ)

 さらに余談、さきにも「封建的」という言葉を世間一般のイメージに合わせて悪い意味で使ったが、わが国の武家社会においては、この下位に向かっての職責尊重ということが相当に行われていたことは意外と知られていない。
 武家社会の上司にとって「部下」とは今日のように一筋縄でいくものではなかったのだ ^^;)


 ところで、この一連の報道に見る限り、知事は相当に職員に対する敬意を払っているが、職員については…まあ嘆かわしい。

 つまりは、幼稚ということでもあるのだろうが…
 そして先に引用したJ-CASTニュースの記事では、府職員の一人のコメントとして、
 「まあ若いか分からないけど、女性職員の若気のいたりかもしれない。理屈を理屈で返したもので、かわいそうなのであまり批判しないで欲しい」
 というものが紹介されているが、
 …社会人、それももう30才だ。あまりに幼稚に過ぎないか。

 ひとつの社会の成員として、トップたる人間に直言するにしても、節度、ものの言い方というものがあるはずだ。多少の慇懃無礼までは良いだろう。

 これも先に引用したMSN産経ニュースの記事では、逆に職員を擁護する意見として、「よく言ったとほめてやりたい」というものも紹介されているが、単に溜飲を下げたという感ともとれる。



 ところで、この件に関連付けて、さらに拡大した記事を書いているのが朝日だ。(「橋下知事批判に抗議殺到 直言職員にはメール1千通超」)

 件の女性職員の件、さらには府議会での民主党議員の答弁に対する抗議メールの殺到ぶりを併記したうえで、
 知事に批判的な発言をすると抗議殺到、自由な議論ができなくなる恐れ、
 といった論調で記事をしめている。

 しかしながら、一般の生活者、庶民というものはそこまでバカではないと僕は思う。
 今回の抗議、朝日上記記事によれば「府民の代表に対し礼儀がなっていない」というのは、むしろ素朴な良識の発露だろう。

 話にある民主党議員の答弁の件というのは、これも方々で報道されているが、
 この記事にもあるとおり、11日の府議会の折、民主党中野議員が橋下知事の著書の一節を批判したうえで、知事の答弁を求めず、一方的な批判、つまり反論をさせない形でしめくくったということである。

 ちなみに知事はこれに対して、反論の機会も与えないというのは卑怯だと非難したわけだが、言論のルールにおいて、通常の感覚では、これはまったくその通りだろう。

 こうしたことに対する府民の反応はむしろ実に良識的で、朝日が懸念するような(というよりは懸念している人がいるというふうに書いてはいるが)、これを言論封殺的な雰囲気ととるのはいかにも杞憂だろう。

 さきに「府民の代表に対し」という言葉もあったが、
 これとて実に本来の健全な感じ方だろう。だって、そこのところは民主主義の根幹に通じるところなのだから。
 (米国大統領の職位の尊厳性もそこに由来する)
 例の女性職員については、公務員として、選挙を経た首長に対するそうした感覚の希薄性も心配だ。
 「現場をわかってない」って… そりゃそうさ。^^;)


■■職責の自覚


 さて、冒頭の知事と職員のやりとりを読んでいて、もうひとつ気になるところがないだろうか。

 僕は、彼女の繰り返す「労働者」という言葉がひっかかってしょうがない。

 「労働者同士分断して」とか「職場を分かっているのは現場の労働者」とか。
 あるいは、「団結」だの「分断」だのと。

 実際…労働問題における公務員の扱いというのは、なかなか微妙なところがあるのだが…

 しかし、僕個人としては、公務員の立場にある人間が、積極的に自らを労働者と規定するのは、どうも気持ちよくは受け入れがたい。

 引用元のJ-CASTニュースの記事でも「朝礼を団交だと思ってる」といった揶揄的なコメントが載せられていたが、職員のあの発言からは、たしかにそんな印象も受ける。

 そう、微妙な問題ではあるのだが…
 しかし僕はやはり、公務員には公務員なりの気概を持っていてほしいものだと思う。

 昔の官吏というものは今よりずっと威張っていたようだけど、その代わり(というのもヘンだが)、官吏としての気概はずっとあったようだ。

 「日本の危機管理はこれでいいのか」(竹村健一・佐々敦行)という本でこういう文章があった。(久しぶり復活の個人データベース ^^)

 内務省史をひもとくと、72年前の関東大震災のことが詳細に記録されている。このとき、内務省の庁舎は焼け落ちている。そこで、どうしたか。当時、内務大臣公舎が紀尾井町にあった。そこを本部にして内務省の職員700名が集まり、芝生の庭で寝起きして災害対策にあたっている。
 芝生での野営だから疲労は激しかっただろう。不衛生にもなったろう。伝染病が発生して職員の中から死者も出ている。
 このような状況の中でも職員を災害対策に頑張らせたのは何だったのか。それは、護民官意識という名の使命感だった。自分は国民の生命、身体、財産の安全を守るために奉仕する役人であるという意識、内務省には確かにこの護民官意識の伝統が根強くあった。



 こういう話は生理的に受け付けないひともいるだろうけれど、
 いわばそうした気概が、悪くは「威張る」にもなったのかもしれない。(なんせ泣く子も黙る内務省)
 けれど、そうした気概は、大切なものも含んでいる。


 それが今日、少なくとも大阪府庁においては、
 始業前に朝礼をするのは時間外で15分間分の超過勤務手当てが必要だと。
 サービス残業をどれだけしていると思うんだ、と。

 一般的な企業では(そして多くの行政機関においても)朝礼なんてものは普通始業時間の前にやるものだと思うが、
 実際、そこには理屈としては問題があるといえばあるだろう。
 (現に、アルバイト・パートなどの明白に時間給の現場では、朝礼についてそうした考慮が為されているところも多々ある)

 また、公務員なんだから文句を言わずサービス残業をいくらでもやれなんて言うつもりも毛頭ない。

 そうなんだけれど、しかし、一般の庶民としての感覚でこの「公務員」の発言をきくと、けっして気持ちよくはないだろう。

 まぁ…このへんは微妙な問題だが、、、
 百歩譲っても、府民環視の環境であえて声を大にしていうべきではないかもしれない。少なくとも橋下知事であれば、知事にねじ込む機会は他にいくらでもある。
 ところが件の職員は、むしろテレビ局が来ているが故に余計に張り切ったような感もないではない。つまりそれは知事に言っていても大阪府民に対して言っているのと同じだ。

 また、テレビの報道では、朝礼後に他の職員のインタビューも流れていたが、僕が見たものでは、「(知事は)わかってはらへんかな、て感じ」「(私たちも)ちゃんと府民のためにやってるしね」「そんな、甘いとか言われてもね」といったものが流れていた。

 大阪府は、甘っちょろい。
 僕の印象はそうだった。

 どのような場合も、変化を起こそうとする場合には、軋轢が生じるものだが、発展的に、うまく克服していくことを祈ってる。
 (こうした渦中にある人々には、昔のTVドラマ「王様のレストラン」を見てほしいなあ。あれは組織改革のお手本だと思う)

 いずれにせよ、少なくとも何がしかの「公務員の気概」、公務員という自らの職責に対する自身抱く敬意(それを「矜持」とは云ふなりっ ^_-)、自覚はもっていてもらいたいと思う。


 どうも歯切れ悪いけれど ^^;)


posted by Shu UETA at 00:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 天下-その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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