2004年10月15日

歩法 ナンバ・非ナンバ

 本日「秘伝」11月号届く(定期購読につき ^^)
 子供の頃の科学と学習(学研)の頃と、人間というのはそうは変わらない。あの頃同様、届いてたことを知った瞬間、わくわくは始まる。

 さて、今回の特集記事は「ナンバと武の身遣い」ということで、第一部が「江戸期の歩法は本当に同足か?」という記事。(同足より同側としたほうが…とも思ったりもするが)

 この第一部タイトルから察せられるように、主旨は、巷に喧伝されるような、江戸期の日本人がいわゆるナンバ的歩法をとっていたとの説はウソである、という主張である。

 しかしながら、この記事には、いくつかの違和感を覚えた。



 記事の主張は、
 
  1.  今日言ういわゆるナンバ的歩法とは、歩行の際に同じ側の手足が前に出るというものである。
  2.  これが、古来江戸期まで日本人の歩行法であったと言われている。
  3.  しかしこれは事実でない。今も昔も歩法の基本は同じである。
  4.  浮世絵や飛脚の写真が有名だが、浮世絵は必ずしも写実的なものではなく、飛脚の写真は実際に走っている場面ではなくスタジオ撮影だ。
     また、ナンバ的でない手足になっている絵もたくさん残っている。
  5.  ナンバ歩きなどというものは存在しない

 といったものである。(ざっくりと)

 私が疑問を感じたのは、
 
  1.  今日武術的身体操作で言う「ナンバ的」とは、「歩行の際に同じ側の手足が前に出る」というものではない。
  2.  そうした武術的に着目されている歩法は、事実存在し、かつ往古の日本人の動作は、一般的にもそれに近いものを持っていたと思われる

 ということになる。

 つまり、命題を肯定するも否定するも、前提となる「ナンバ的」の定義の時点で、既に噛み合っていないようだ。

 今日、武術的な意味(さらにそれをヒントとしたスポーツ的な意味でも)で言われるところの「ナンバ的」というのは、それを表現する適当な用語がないため、便宜上「ナンバ的」と言われるだけであり(それがさまざまな混乱のもとではあるが)、従来の一般用語としての「ナンバ」、つまり「歩行の際に同じ側の手足が前に出る」とは異なるものだ。故に「ナンバ」ではなく「ナンバ的」と苦しい表現になっているのだろう。

 では、その「ナンバ的」とは「ナンバ」とどう違うのか。
 まず、武術で注目する「ナンバ的」とは、手を振ることを前提にしていない。むしろ手を振らないのが基本であるから、手がどっちの足と同じであるも反対であるもない。
 また、後述するが、手を振らないまでも、腰に手をやるでもなく、手を脱力してぶらぶらさせていれば、状態次第で、同側の足と同じになることもあれば反対になることもある。それを、静止的な絵画の絵に検証しても始まらない。
 武士は左手を刀の柄に、右手を扇子、もしくは腰の前部にして歩き、町家の者は両手を腰の前にして歩くのが一般的だったと思われるが、しかし、常時そうであるはずもない。現代人が手足逆側で歩くからといって、普通に道を歩いている際、常に兵隊のようにちゃんと手を振っているわけではないのと同様。

 また、当該記事文中では、手足の同側、反側を検証する以外に、次に、手を振っていたがどうかを検証している。
 文献などを参照し、例えば、武士が腰の脇差しで左の裾が綻びるという例から、やはり手を振っている、とし、「手を振っている」故に「現代人と変わらない」という展開をとっている。

 この点についても、裾の綻びが歩行の際の手の振り以外に、平素物を取る、置くなど生活の中で起こり得ることも当然なら、また、手を振っていなくとも、歩いておれば小刻みに刀と裾が擦れつづけるのも当然といえる。
 まして、手を振ってさえいれば現代人と同じ歩法だとは論理的に結論できない。

 筆者は、「新古の歩法は基本的に同一」と結論づけた上で、「江戸期における特殊な極意身法に大きな期待を抱かれ、それを追求されている方には少しお気の毒であるが、是が真実である」と締めくくっている。
 三世紀をまたがって生きてこられたような年輩の方とも思えないが、どのように「真実」を知ったのかは謎である。 ^^;)

 いや…愛読雑誌にいちゃもんをつけるつもりはないのだが、いちゃもんではなく、素朴に感じた疑問としてである ^^;)

 さて、ちなみに私は、「江戸期における特殊な極意身法」なるものを追求してはいないが、知的関心の範囲としては、認識として、現代人とは多少異なる身体意識を持って動作していただろうと、そして歩行を取り上げるなら、歩行についてもそうであったろうと考えている。

 根拠のいくつかとしては、ひとつには絵画に描かれる仕草(今回の記事での反例ではやや弱い)、そして着物を着ての動作が必然的に導き得るものとしてである。
 当該記事筆者は、この点についても、すべての人がいつも着物を着ていたわけではなく作務衣だって着ていた、と論じているが…今日に生まれ育った我々でさえ半日以上も着物で動作していれば、そして身体的カンのいい人ならばそこで楽に動く方法に導かれ、着物を抜いだ後もしばらくそれが動作に影響するのであるから…

 この着物での動作が何を導くかということについて、現在私が感じているのは次のようなことである。(着物を着た際を想起、もしくは想像されたい)
 まず、基本的に腕を振りにくい。振りにくいし、振ろうとも思わない。また、ものを手に取ったり受け渡したりする際、あるいは給仕などで何かを運ぶ際にも、脇を締めて胸の前で保持するようになりがち。どちらかというと、胸の前に縮こまるような感じか(上手く言えないが)。
 また、ものに対して片手だけを伸ばすというよりも、身体全体でそちらに正対して正面でやりとりするような動きになりがち。

 ちなみに、こうした動きの線上で洗練させていくと、礼式の作法にも合致している。

 さて、ではこうした状態で、歩くということをやってみよう。
 手を振らない(振りにくいから)で歩くには、今風の歩き方では非常に歩きづらい。現代風の歩き方では、腕の振りによるモーメントが、下半身のモーメントとバランス(相殺)しているので、この腕をなくすと、バランスがとりにくい。
 これでバランスよく気持ちよく歩くには、また別の身体づかいが必要になる。また、しばらく着物で過ごしていれば、そうした感覚が生まれてくる(現代人のわれわれでさえも!)。

 ついでだが、「ナンバ」という「歩行の際に同じ側の手足が前に出る」ような歩き方をしても、歩きにくさは解消しない。というより、こんな歩き方では、着物だろうが洋服だろうが、いずれであれ歩きにくいことこの上ない。

 ここで、「ナンバ」ならぬ「ナンバ的」と言われる歩法についてだが、ここからは、私もまだ研究の途次でありあくまでも現時点での私の見解となる。

 この「ナンバ的」歩法では、腕の振り云々ではなく、地面に着いた側の足と同じ側の肩胛骨が下がるような感覚が重要だと思う。肩胛骨がイメージしにくい、あるいは肩胛骨周りが柔らかくない人は、仮に「肩」でイメージしてもらうといいかもしれない(あくまでイメージのための仮として)。

 腕を脱力して垂らし、足が地に着いている側の肩胛骨(肩)を落とすような感覚である。つまり一歩目からして、前に出す足よりも、残る足側の肩から足の軸を意識する。

 通常の歩き方では、どちらかというと振り出す足に意識が向かうが、そうではなく、残る足側に意識があるような感じと思う。

 ちなみに振り出す足については、足自身も脱力した状態で、身体の中ほど、腰の深部の筋肉で、つり上げる感じ、また場合によっては、そちら側の足と肩あたりを引きつけるような感じである。

 文で表現するのは困難だが… ^^;)

 さてこの歩き方で、あえて手を本当に脱力しきってブラブラさせるにまかせるとどうなるか…結果的に、前に出る足の側の手がぶら〜んと前に揺れていくのである。
 故に、「ナンバ的」である。
 しかし、腕を意図的に振るのとは天地の違いがあり、身体の中で行われていることは全く別なのだ。
 実際、かなり脱力していても、腕全体が前に触れるというよりは、肘から先が前に揺れ出される程度に過ぎない。

 しかし、この歩き方を身につけると、本当に軸がぶれない。
 剣を正眼に構えて歩いても、全く剣先が動揺しない。
 さらには、最近気づいたが、汁物を手にもって運ぶ際、かなり無頓着に歩いても水面がゆれない、つまりこぼさない。
 これに気づいた際に検証してみたが、実際ではしないような、あえて肩胛骨(肩)を大袈裟に上下させるようにしてみても、やはり剣先も汁物も動揺しない。

 また、いくら歩いてもまるで疲れない。登山でも同様。

 取りあえず現時点で、自分の歩法のひとつの完成型と思っている。(むろん、今後さらに発展する可能性を持っているが)

 そして、こうした動作の傾向が、往古の日本人にあったように思えるのである。それは、絵画などに見る、柔らかな肩胛骨の落ちなどに顕著である。
 また、先に述べたように、そうでなくては余りにも動きにくい、あの服装では ^^;)

 歩法については、取り組んでほぼ4年ほどになるが、その間の経緯、成果等について、また追って別記事で投稿してみたいと思う。


posted by Shu UETA at 19:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 武術/身体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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