2004年10月02日

米大統領選 第1回TV討論

 米大統領選もたけなわ。
 先日第1回目のTV討論が行われた。

 実のところ、米大統領選についてはさほど注視してきたわけでもなく(我が国の制御範囲外であるし、政権がどちらに落ちた場合にも対応を考えておく必要があることには変わりがないし)、門外漢の程も甚だしいのだが、二三の感想を。

 日本メディアにおいては、ケリー氏の勝ちと、米英メディアではケリー氏の辛勝、あるいはドローというのが一般的で、いずれにせよブッシュ氏の勝ちという評はないようだ。
 直後に行われた世論調査でも、ケリー氏の勝利という判断が大幅リードだった。

 テレビ討論初回はケリー氏に軍配 評論家、世論調査の判定


 Key quotes from presidential debate(主要なやりとり)

 戦術的には、ケリー氏のほうが明確な目標をもって臨み、またそれが見ている方にも明らかであり、所定の成果を得たように見えた。逆に言えば、ブッシュ氏には明確な戦術目標を感じにくかった。

 しかしながら、ブッシュ氏に関しても、私はあれで良いと思う。
 TVで数カットを見た限りだが、多少言葉に窮する場面も散見されたものの、全体的に余裕が感じられた。

 あれでよい、と私が思うのは、ひとつには、このTV討論の印象的勝敗と、支持率はまた別だからだ。(ちなみに、直後のある世論調査でも、討論のケリー氏勝利がブッシュ氏を10ポイントほど上回っていたが、支持率については両者ともに1ポイント増え、ブッシュ氏がリードしていた)
 TV討論をもっと早い段階にやればどうかと私などは思うのだが、この時期のこと、日経記事に指摘される通り、TV討論後に支持率が逆転したのは、過去3度だけだという。
 この3回というのは、ケネデイ氏がニクソン氏に対して、カーター氏がフォード氏に対して、レーガン氏がカーター氏に対して逆転したもの。
 私の考えでは、これら3回というのはいずれも、逆転した側のポイントというよりは、逆転された側の失策によるところが大きい。(TVでの見栄え等すら含めて)

 ブッシュ陣営の戦術としては、積極的攻勢戦術よりも、こうした失策をしないということを目標とするのが妥当ではないかとの考えから、今回のブッシュ氏の討論は十分と私には思えた。
 実際に、その通りの考えでブッシュ陣営は臨んでいるのではないだろうか。安定してリードを保っている状況であり、これ以上無理に攻勢に出るよりも、むしろ危険なのは失言を含む失策であって、攻撃的防御は不意の失策もおかしやすい。

 反対にケリー氏の立場では、今回行ったようにまずは自らの立場を鮮明に印象づけることに加え、でき得るならばブッシュ氏の失言を引き出したいところだ。
 戦術論でいうところの「機と間」に照らせば、「機」を捉えることである。「機」とは自らの問題というよりは、環境や相手が見せる隙であることが多いため、これを引き出す工夫をしつつ、いかに辛抱強くこれを待ち、これが見えたときにいかにこれに乗じることができるかだ。
 今回主眼であったように自らの態勢を整え(「間」)、これに加えて相手の失策を誘発するような工夫をおこないつつ、相手のミス(「機」)を待つしかない。軟式テニスのラリーのように。^^)
 私の感想では、今回の討論では、「間」の努力は見られたが、「機」を引き出す工夫が見られず、そこが物足りなく思えた。
 しかしおそらく、今回の一定の成果を踏まえ、次回はさらにそうした着意をもって臨んでくるのではないかと思う。
 この場合、ブッシュ氏は、今回のようにゆったりと構え、とにかくミスをおかさないことが主眼となるだろう。
 (「機と間」については、本blogでは名将言行録第11号関連記事の後半に多少解説あり。)

 (その他メディアの評など)
 No Knock-Out Punch in Bush-Kerry Head-to-Head
 Kerry seen with "slight edge" in debate
 Very Well, He Contradicts Himself --- Kerry’s multitudes of positions.
 Experts Rate Debate A Draw


 ところで米大統領選というと、随分以前に読んだ、クリントン氏の二期目の大統領選を描いた「オーバル・オフィス」を思い出す。
 思い出すも何も、米大統領選に関する私の知見の大部分はこの本から得たものでしかないのだが… ^^;)
 選挙参謀として当時一世を風靡していた著者であるだけに、一層赤裸々な描写がなされているが、候補者の政治家としての理念などよりも、とにかく、日々行うさまざまな世論調査の結果に対していかに自らを沿わせるかということを徹底的にやっている(少なくともクリントン陣営は)。
 あるトピックに対してAという意見が優勢なら、それを自らのスタンスとする。Bという意見が劣勢なら、その反対の立場を表明する。万事がこの繰り返し、積み重ねである。
 個人の理念が入る隙といったら、世間であまり注目されない分野か、賛否の対立が激しくない分野だけである。
 これを読んだ当時は、多少の幻滅感も抱いたものだが、しかし、今回の大統領選を眺めながら(どちらかというとケリー氏にこの傾向がより強いようだ)、ある意味、そうして割り切ったほうが、より民意の反映は満たされるとも言えるのか、、、などと考える。
 単純化すると、世間の多くの人が言っていることを自分の見解とする、そして、反対意見(相対的少数のはず)を世間に代わって説得するなり論破することを仕事にする、ということになるわけだから。

 私自身は、民意を無視するということではないが、民意を汲みながら世間に代わってビジョンを生みだし、要すれば盛んに啓蒙するという指導者の役割を担うのが政治家であるべきと思うし、ひたすら世論に阿るのはどうかと思ったりもするのだが、そもそも民主主義のシステムからすると、形式的にはそこまでを要求するものではなく、あくまで国民の代表者として国民の思うことを実施するのが政治家の役割と言え、だとすると上記のような大統領選戦略の徹底ぶりは、国民に阿るというより国民の意思を正しく反映するという本来のあるべき姿と言うべきか。

 ちなみにこうした傾向は、奇しくもこの本が描くクリントン氏の頃から極端に顕著となっており、以来、候補者間の政策の違いが見出しにくい時代となっているようだ。

 cover
 オーバル・オフィス --- 大統領執務室
 大統領選の内幕が非っ常によくわかる。
 単に読み物としてもおもしろい素晴らしい本だが、絶版なのかも。
 Amazonでは中古を扱ってる。
 しかし読んでおく価値はあると思う。

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posted by Shu UETA at 15:44| Comment(1) | TrackBack(0) | 思索 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント

 正直、今回の討論で逆転まではあるまいと考えていたが…
 早速、ニューズウィーク誌が2日発表した世論調査結果によると、ケリー氏の支持率が47%で、ブッシュ氏の45%を上回り、共和党大会後初めて逆転した、とのこと。

 他のより大規模な世論調査を待たないと大勢は不明とはいえ、多少面白みが出てきたか… ^^;)

 ちなみに同誌が併せて質問した項目によると、イラク戦争が不必要だったと考える人が50%と、必要だったと回答した46%を上回っており、この間の相互関係が大きいのでは。

Posted by Shu UETA at 2004年10月03日 12:44
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