2005年08月09日

(名将言行録) 名将たる中庸

マガジン「名将言行録」53号関連記事

 「名将言行録」第53号では、上杉景勝の人柄を語って、「もの柔らかく、一見手ぬるい性格かと思えばそうではなく、怒るときには恐ろしく、その怒りの恐ろしさから不仁であるかと思えば慈悲があり」という評を紹介しています。

 ここでは、「甲陽軍鑑」が語る名将の条件というものが思い起こされます。
 今日は、少しそれを紹介しておきましょう。

 著書「よみがえる武士道」で、菅野覚明氏は次のように「甲陽軍鑑」を引用し、武士たる者の良き人格バランス、将たる者の中庸ということについて記しています。

  軽き大将かと思へば重し。歌をよび、きやしやにして、いかにもいつくしきかとおもへば、怒りたまふ時は、自身太刀・長刀をとつて、異国の韓信・はんかいもただこれほどぞあるらんと思ふほど、威光強し。(甲陽軍鑑、北条氏康評)

 武士の世界における常識人は、今日我々が思い描くような、何事にも中庸を取る穏やかな平均的人間のことではない。北条氏康の人物評に見られるように、軽いかと思えば重く、いかにも優美でありつつ、怒れば韓信・はんかいといった伝説の豪傑も及ばないさまを示すのが、分別ある、つまりはバランスのとれた人間のイメージなのである。

 すなわち、武士の世界のバランスは、過不及を削った適度としての中庸ではなく、一人の人物が過激な両極端を矛盾なく体現するところの中庸なのである。両極端を足して二で割った常識ではなく、両極端をそのまま包み込む、いわば両極を超えたところにある常識なのだ。

 それは、歌を詠み、領民を慈しむやわらかで優美な人柄が、同時に「七歳にて人を切り」「一度も勝たずと言事なし」という「強さ」と同居しているさまをあらわすものなのだ。

 強すぎたり弱すぎたり、一方に偏るのは大将として重大な欠陥である。かといって、強すぎもせず弱すぎもしない中庸が、分別有る大将のあり方なのでもない。強いところは徹底的に強く、弱いところは徹底的に弱く、堅いところはどこまでも堅く、やわらかいところはあくまでもやわらかい。すべての方面をその徹底した極において備え持ち、正しくそれを発揮するのが「よき大将」なのだと、「軍鑑」はいう。



 なかなかに、示唆に富む指摘ではないでしょうか。

 織田信長などは一般的イメージとして苛酷なキャラクタばかりが強調されて想像される面も強いですが、たとえば「信長公記」をはじめとするいくつかの文献を見るならば、兵や庶民に対する優しさ、家臣の夫婦喧嘩を仲裁しての細やかな手紙、あるいはユーモアなど、やはり信長についてさえも、ここに述べられるような両極端を一身に併せ持った人格を感じさせられもしますね。

 今日というのは、父であれ夫であれ彼氏であれ、上司であれ、先輩であれ、徹底的に優しくなりきることもできず、さりとて嫌われることは恐れ、まさに「足して2で割った」ような中庸に落ち着いている、あるいは堕しているという場合もあろうか、そうしたことが多い世情にも思われます。

 むろん伝説的な部分は多いにせよ、単なる猛将はともかく、より格の高い名将たる人々は、鬼神のごとく恐れられた人であっても、一見実に柔和、あるいは優美であったという話が多くありますね。
 大軍を号令して鬼神の如き働きをしたという将に、むくつけき猛き人物というのはむしろなかなか見つかりません。

 それは、八幡太郎は恐ろしやといわれた源義家しかり、源義経は「優美」というには難があるところでしょうが、都の人々はどれほどの鬼のような猛将かと思いきや、意外なほどに柔和な小男であって大いに安堵したといわれています。
 新田義貞であれ足利尊氏であれ、平素一見すれば猛々しさは感じられない人物であったといわれます。
 信長が美男であったことは数々の記録にも見えますし、先にも述べたとおり、部下の夫婦喧嘩(秀吉とおねです)においてさえ妻の側にあれほど細やかな気遣いを見せる手紙を書いたような人物はなかなか他にはいないでしょう。
 これまで名将言行録で扱ってきた数々の名将たちも、いったん戦場に出れば文字通り鬼神のごとき恐ろしさを発揮しますが、いずれも平素の柔和、あるいは優美、柔和ということが語られることが多かったですね。

 繰り返しますが、むろん所詮伝説的な部分は多いかもしれません。
 しかし、仮に多くが人口を介する間に変容したものだとしても、であればなおさら、かつての人々が思い描く名将の理想というものがそこに現れていると見ることもできます。
 戦場で逢えばそれこそ後々夢にうなされるほどの鬼のような恐怖と、そして平素にあっての仁愛や優美はこれも格別常人のレベルではない、そうした性質を併せ持った人格というものが。

 僕などは、(今時の「進歩的」女性には異論もあるかもしれませんが、^^;) 敢えて、)男子たるものはかくありたいもの、と平素信念しているところでもあります。



 さて、「名将言行録」次回は引き続き上杉景勝をお送りします。
 お楽しみに。

 なお、「melma!」のメンテナンスによるサービス停止のため、一週お休みをいただきまして、次回配信は8月23日とさせていただきますので、よろしくご承知おきください。

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posted by Shu UETA at 07:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 名将言行録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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