2006年09月01日

マガジン「孫子入門」


 まぐプレバナー

 かつて好評配信させていただいたマガジン「戦略入門」木曜版誌上で、2004年10月から2006年4月までお届けした「孫子解説編」を、加筆修正のうえ、いわば第2シーズンとして単独マガジンとして発刊してまいりましたが、2月25日号をもって最終回となりました。
 ご愛読、ありがとうございます。

 さて、「戦略入門」中の企画としても最もご好評をいただいていた本シリーズですが、今後は、なんとっ! シーズン3として新装発刊いたします。

 大幅に加筆して新装の予定です!
 戦略入門当時あるいはシーズン2を読み逃していたという方、途中からだったという方、もしくはシーズン2ではもの足りなかったという皆さま、ぜひぜひこの機にご購読ください。 ^^)
 ※注:シーズン2からはそのまま継続して3が配信されます。
    現在のシーズン2読者の方は、お手続きはいりません。

 毎週月曜発行
 月額300円(初月無料)
 08年3月3日新装創刊
 ご購読手続きは上のバナーからどうぞ。
 (サンプルは本記事の下段にあります)
 筆者紹介:記事末尾

★なお、毎週待ってられない、すぐ全部読みたいっ!という方は、
 バックナンバー案内をご覧ください。
 一括でバックナンバーをご購入いただけます。


 記事サンプル


孫子入門 vol.0XX
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
0X/XX/XX

 今回から「虚実篇」になります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「虚実篇」(一)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 読み下し文 ■

 孫子曰く、凡そ(およそ)先に戦地に処りて(おりて)敵を待つ者は佚し(いつ
し)、後れて(おくれて)戦地に処りて戦いに赴く者は労す。
 故に善く(よく)戦う者は、人を致して人に致されず。能く(よく)敵人をして
自ら至らしむる者はこれを利すればなり。
 能く敵人をして居たるを得ざらしむる者はこれを害すればなり。
 故に敵佚すれば能くこれを労し、飽けば能くこれを飢えしめ、安んずれば能
くこれを動かす。

───────────────────────────────────
■ 意 訳 ■

 孫子は言う。
 およそ戦いにおいて、先に戦場に着いて敵を待ちかまえる側は楽だが、後か
ら戦場に駆けつける側は苦労をする。
 したがって、戦い巧者は自らが主導権を握って、相手を自分の思うままに動
かし、相手の思うように動かされるということがない。
 敵に自らやって来させるには、利によって誘い、逆に敵が来れぬようにする
には、敵の不利を示して躊躇させるのだ。
 故に、敵が安逸であればこれを疲弊させ、敵が満ち足りていればこれを欠乏
させ、敵が平静にしていればこれを誘い動かす。

───────────────────────────────────

> 人を致して致されず

 今日はこの一言に尽きます。
 ぜひ、胸に留めておきましょう。
 「人を致して致されず」、です。

 「人を致す」とは、人を自分の思うように動かすことです。
 「致されず」とは、逆に自分が他人の図に乗って動かされないということで
す。

 いずれの場合にも、無意識に知らず知らず動かされるということと、わかっ
ているのにそう動かざるを得ないということとがあります。

 詰め将棋などを思い浮かべてみましょう。
 打つ手打つ手に応じて、こう受けざるを得ない、ということを重ねた結果、
しまいには詰んでしまうわけですが、これは、わかっているのにそう動かざる
を得ないというものですね。

 さて、一方で、無意識のうちに、相手の企図に乗せられてしまうということ
があります。
 作為側としては、より高度で有効なアプローチになるでしょう。
 逆に、自分がそうした手にはめられることを避けるには、油断無く十分な注
意をしていなければなりません。
 孫子が「利によって誘う」と言うとおり、一見すると、あたかもこちらに非
常に有利な状況と見て勇躍行動したところ、それが罠であったということはよ
くあることです。
 防御という観点に立てば、そのような時こそ、十分な考察が必要です。

 さて、「人を致す」ということについて、具体例としてあげられているのは、
 利によって誘う
 不利によって躊躇させる
 ということです。

 例えば、俗ではありますがいわゆる「隙を見せて誘う」というのは、「隙」
を作為することによって相手がそれをチャンスと見る、勝てると信じることに
より(これが相手の利によってということです)相手を動かすということです。

 逆に、相手を動かしたくない場合には、動くと危険だと相手に思わせるよう
に仕向けなければなりません。それが「不利によって躊躇させる」ということ
です。

 さて、「人を致して致されず」、これは戦いの原則として言えば、「主導」
ということにあたります。
 主導権を握るということです。

 先ほど詰め将棋の例を出しましたが、相手にとってそのやりとりが無意識で
あろうとも、しかしこちら側としては相手の知らぬ間に既に詰め将棋のクロー
ジングに入っている、後は時間の問題、ということが理想です。

 こちらがこうすれば、相手は自然こうする、それに対して次はこうすれば、
相手はこうするしかない…と、状況を完全にこちらがコントロールするのです。
 完璧なシナリオを用意して、その通りに動き、動かしていくことです。

 逆に危険であるのは、敵のそのようなシナリオに乗ってしまい、後手後手に
まわってしまうことです。
 このシナリオ、詰め将棋がよくできていればいるほど、途中で気づいても、
最早抜けることは非常に困難なことがあります。
 なぜなら、「こうすればこうせざるを得ない」ということの積み重ねにはま
ってしまうと、わかっていても、そう受けるしかない、ということが続くこと
になるからです。

 そこで、「主導」という原則は「先制」という原則とも密接な関係を持つこ
とが多くなります。
 双方が同等のシナリオ構成力を持っているとしたならば、先制側が有利にな
るのは言うまでもないことだからです。

 いったん相手の主導を許してしまった場合、そこから抜けるには、一般的に
二つの方策があります。

 ひとつは、出血覚悟で非常識な対応を入れることです。
 シナリオが、「こうすればこう受けざるを得まい」ということの積み重ねで
できている以上、それを「受けない」ということを選べば、相当な被害を甘受
することになりますが、その代わり、そこでいったん仕切り直すことができる
場合があります。
 この場合は、目的、目標を認識したうえでの優先事項の判断の適切さという
ことが重要です。

 もうひとつは、行動サイクルを速めることです。
 例えて言うならば、交代交代に一手ずつ指すところを、相手が一手指すごと
にこちらが二手指すということです。
 それが可能であれば、相手の主導性を失わせ、こちらが主導権を奪い、シナ
リオを押しつけることが可能になります。

 もっとも、このことは、頑張って決断も行動も速くしようと思えば簡単にで
きるというものではなく、平素からの整備が必要なことです。
 行動サイクルというのは、「情報収集・分析−判断・決心・命令−行動」と
いう最低限の要素がありますが、これらのサイクルをその場の思いつきですぐ
に相手より格段に速めるということには限界があります。それを可能にするの
は偏に、そうした態勢を平素から整備、訓練しておくしかありません。

 それが、今日言うところの「情報RMA(情報軍事革命)」というものの重
要性でもあるのです。
 情報RMAでは、高度の情報技術の活用により、戦場空間認識に関わる情報
収集と分析、及びその配分の効率を飛躍的に高め、意志決定に必要な時間、命
令の伝達及び行動に必要な時間をも短縮します。
 そうしたRMA化を受けた軍は、そうでない軍にくらべ、数倍の速さで行動
サイクルをまわすことができるわけです。
 そうなると、行動サイクルの遅い軍が戦場で主導権を握ることは、ほぼ不可
能に近づきます。

 そのように、行動サイクルにおいて、もし圧倒的な差を持つことができたな
らば、ただ主導権を得るということだけではなく、相手の対応を飽和させると
いうことすら可能となり得ます。
 対応を飽和させるとは、こちらのアクションに対して、その全てには相手が
対応仕切れなくなるということです。


 もう一度、まとめておきましょう。

 まず、相手をこちらの思うとおりに動かすことを考えます。
 そのためには、相手にとっての利、不利を創作して相手を動かすことを考え
ます。
 一方で、自分が相手のそうした術中にはまっていないか、常に十分注意しな
くてはなりません。
 さて、いったん相手のシナリオに乗ってしまった場合には、どこかで損害覚
悟の非常の対応により相手の想像を裏切る必要があります。
 また、平素から部隊の組織及び装備さらに訓練等により、自軍の行動サイク
ルを高回転に整備しておくことが、有事の主導性確保には重要です。

> 人を致して致されず
 これを肝に銘じておきましょう。


 史上の名将という人々は、シナリオ作戦の名手であることが多いものです。
 長篠の合戦は信長の鉄砲隊が有名ですが、見落としてならないのは、その鉄
砲隊の前に武田騎馬軍を来させたという手腕です。
 長大な馬防柵を構えていた織田徳川軍は、その陣を自在に動かすことはでき
ません。なんとしても武田が自らそこに攻め寄せてくれなければ鉄砲隊は活き
ないのです。

 こうしたことは戦争に限らず、外交などにおいても同様です。
 また、言うまでもないことでしょうが、主導権をとっても、そこで敵に押し
つけるシナリオを持たなければ何の意味もありません。 
 シナリオとは「構想」です。

 特定の「敵」などというものを持たないビジネスの場においても、行動サイ
クルの整備ということは、組織の戦力を飛躍的に高めもすれば、低くもしてし
まいます。
 状況掌握から意志決定、指令、行動というサイクルをいかに速く回転させる
か。そうした組織編制、装備等を研究する必要があります。

───────────────────────────────────
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 <筆者>
 上田 修司(うえた しゅうじ)
 昭和44年神戸生まれ
 20年余にわたり戦略戦術・危機管理・組織デザインを研究する
 平成5年幹部候補生学校において航空自衛隊入隊、幹部自衛官として指揮官、教官職等を歴任
 心中期するところあって官を辞し、目下雌伏の日々を送る

posted by Shu UETA at 00:00| 戦略戦術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。