今回(差し当たりの)解決をみた竹島周辺での海洋調査問題だが、ざっと僕が感じたのは次のようなこと。
(1)日本側としては上首尾といえる範囲の妥結、成果あり
(2)日本政府(官邸サイド)の毅然態度は良い変化
(3)韓国は日本側の意志を読み誤った
(4)両国における官邸と外務官僚の温度差が印象的
(5)盧武鉉政権の間は大きな動きも落としどころもない
今回の妥結は、ほぼ日本側がある程度の成果を得たものとなったと思う。
逆にいえば、韓国側は途中からはダメージの回避に手一杯で、結果的に新たに得たものはない。
日本側のある程度の成果というのは、
ひとつは、日韓間の領土問題の存在を多少はアピールし得たこと。
ひとつは、国家の構成要素に対する保護について政治的に強い意志を示したこと。これは長らく日本においては希有なことであったし、これは(以後の政権でどれほど持続するかはともかく)良い変化だと思う。
ひとつは、こうした意志の表示により、韓国側に今後の対日対応について再考させることになるだろうこと、ひいてはそれが両国間における真っ当な「交渉」の機縁ともなり得ること。
周知のとおり、韓国側は、領土問題の存在自体を認めない立場に立っている。
したがって、今回のような問題がエスカレートして国際的注目を浴びること自体が戦略的痛手であり、そうしたことも今回の妥結への大きな圧力となったろう。
結果、大きくエスカレートすることはなかったものの、しかしながら一定の国際的アピールにはなった面もある。これは日本にとっては得点であり韓国にとっては失点だろう。
国家の領域、国土というものは、今日の一般的通念では疑いもなく国家の重大な構成要素だが、あわせてそこにおける国家の主権というものや、国民という、国家の構成要素に対する守護の意識が、日本においては長年実に希薄だった。
そのことは、一例すれば北朝鮮による国民拉致事件についてもそうであったし、あるいは竹島関連で言うならば漁業従事者の生活はもとより身体・生命の保護についても同様だ。
これが「希有であった」ということもあってか ^^;) 、韓国側は日本の出方(意志)を読み誤ったように思う。
それは、強硬に出れば日本は(いつものように)引っ込むだろう、「遺憾である」とだけ表明して、ということであったろう。
しかし期待に反して日本は毅然と対応した。
この時点で、既に韓国に勝ち目はなかったし、日本側には負けはなかった。
孫子のいう「勝って後戦う」という意味では、日本の読み筋は素晴らしかった。(読み筋ではなく単に偶然かもしれないけれども)
というのは、
日本が自ら勝負(or交渉)を降りない限りは、
仮に交渉が決裂して日本が測量船を当該海域に送ったとしても、韓国にできることは、警備艇による妨害行動でしかない。拿捕であるとか火力攻撃などといった国際法に明白に反する行為が国際環視の中でできようはずもなく(加えて領土問題の存在をこれ以上ない形で国際的にPRしてしまう)、それは韓国とて重々承知であろうが、仮にそうした行為に及んだとしても日本は無抵抗であればよく(実際、今回の調査船においても海保職員は敢えて銃器を携帯していない)、また警備艇による進路妨害その他の妨害行動においても、日本は適当なところで作業を切り上げて引き返してくればよいのだ。
そうした既成事実を収穫して帰ってくるだけで、二国間の係争が認知され、国際水路機関での韓国の提案が通常の手続きで俎上にのせられることはないし、そうして封じ込めてしまえば日本としては当座の目的を達し得る。また、そのように領土問題が国際的に認識されること自体、これも日本にとっては良い副産物だ。
安倍官房長は外務次官に対して、国際水路機関での韓国提案を取り下げるという約定が入らない限り、交渉の席をたって帰ってきてもよいと訓令したと報ぜられていたが、それは正しい指示だ。
日本としては、上述のように事態が進展しても一向差し支えないどころか、むしろそのほうが収穫が大きいくらいであったのだから、日本として交渉において引くべき理由はどこにもない。いずれにせよはじめから勝負はついている。
で、あるのだから、韓国側(交渉担当者)は実に苦しい立場にあったろう。ことここに至れば(日本がいつもどおりには早々に泣き寝入りしなかった時点で)、韓国側の被害を局限するためには韓国は交渉においてなんとか妥結せざるを得ない。
そのため、韓国外務省の担当者は、大統領府を懸命に説得したとみられる。
この、行政府と官僚の温度差というのは、日韓両国においてともに顕著であったように僕は印象した。
韓国においては、盧武鉉政権は例によってほぼ一点張りに近い対日強硬姿勢、(対米をはじめ他の諸関係同様)そこにあまり高度な判断力や戦略性はなく、今回の「読み誤り」の主体は盧武鉉氏本人でもあったろう、声を荒げれば日本は引くだろう、との。
一方、日本においても、今回いつになく毅然とした方針を示して外務省を叱咤したのは官邸であったようだ。
これは僕の勝手な印象、推測だが、
盧武鉉政権は随分以前から既に、行政官僚から、それもことさら外務官僚からは相当に浮き上がってしまっているように思われる。
官僚は政治に仕えるものであるから、当然ながら勝手な方策は許されないが、今回の次官会談においても、実はそうした韓国外務担当者の苦衷というものがあり、日韓官僚同士の間ではそうしたことに対する一定の相互理解ということが心情的にはあったかもしれない。
あくまで仮定だが、もしそうしたことがあれば、これを機縁に、実務担当者間での信頼関係の醸成ということを向こうしばらく意識的に積み上げていくことは有意義だろうと思う。
少なくとも盧武鉉政権というある意味かなり稚拙な政権の間に、日韓間の問題が生産的に前進することはほぼあり得ないと思われるが、であればそれを逆手にとって、その期間、そうした種まき的活動はむしろ行いやすい面もある。これはあくまで韓国外務省の心理的環境の話としてだが。
単なるリップサービスだかどうだか、交渉後、外務次官は韓国外務次官を「立派な人物」とコメントし持ち上げていたのが印象に残った。
いずれにせよ現に、少なくともEEZ確定交渉は再開されそうな感触ではある。
ところで、報道によると、盧武鉉大統領は明日にも対日関係に関する「特別談話」とやらを発表するとのことだ。今回の日韓外務次官会談について、政府の立場を明確に示すといっているが、そのようなことをわざわざ行うという時点で既に、この内容は、あらためて大統領府と外務省の温度差を見せるものとなるかもしれない。
少なくとも、外交交渉のルールに反するような暴挙に出ないことを最低限期待したい。場合によってはまた現状を引っ繰り返すくらいのことをやりそう(言いそう)で怖い。^^;)
日本の分析では、韓国国内向けの発言といういつもどおりの相手の事情を斟酌した分析でしたが、ぼくは「素」だと思いますね:-)
> ぼくは「素」だと思いますね
あはははは
同感っ!
国内向けにしても、その中には「外務省向け」というか、多少の鬱憤もあっておかしくないだろうな、とも。
>盧武鉉政権は随分以前から既に、行政官僚から、それもことさら外務官僚からは相当に浮き上がってしまっているように思われる。
同感です。いまの韓国外交は素人目にも異常です。僕はよく分かりませんが、韓国大統領の統制力というのは相当に大きなものなんでしょうか。
いずれにせよ、盧武鉉政権の次の政権に期待した方がよさそうですね。
おおおっ!!!
なんとっ!
久しぶりじゃないですかっ
うれしいですっ
見に行ってみれば、blogも再開されてるし!
ぜひぜひ今後ともよろしくお願いします。
(「入社」というのが目を引きましたが ^^;)
実は僕も韓国の政治体制には全く詳しくないのですが、一応、大統領制というだけに、行政における大統領の権能は相当程度大きいのでしょうか…
加えて、外交に関しては、対日に限らず、対米、対中、対北等々、いずれにおいても、国民の大衆的感情論を燃料にして力を得ているようにも見えますよね。
少なくとも外交面に関しては、かなりの程度、民主主義の弱点、危険な面を強調している状態なのではないかとも思えます。