2005年01月23日

(読書) 「航路」

music My Heart Will Go On / Celine Dion

 cover cover

 僕にとっては、ここ数年でもNO.1かもしれない面白さだった。
 おそらくは、ジャンルや方向性の好み、嗜好を超越して、とりあえず字が読めて読書をたまにでもするという人になら全ての人にお薦めできるのではと思うほど。 ^^;)

 とは言え、あえて対象者を絞るならば、科学モノが好きな人、サスペンスが好きな人、哲学が好きな人…これらの人はいずれも、とりわけ大いに楽しめるに違いないと思う(ちなみに僕は1番目と3番目に該当 ^^)

 上巻帯の「宮部みゆきさん絶賛」は(僕にとっては)ともかくとしても、下巻帯の「瀬名秀明さん絶賛!」に期待して読み始めたが、その期待は少しも裏切られなかった。(瀬名秀明氏の著作では「BRAIN VALLEY (上)(下)」がお気に入りだが、それよりも面白かったようにも思う。)

 著者は Connie Willis(コニー・ウィリス)、訳は大森望(訳は非常に良かった)。

 まずは、文庫本裏表紙の紹介文を…

  認知心理学者のジョアンナは、デンヴァーの大病院にオフィスを持ち、朝はER、午後は小児科と、臨死体験者の聞き取り調査に奔走する日々。目的は、NDE(臨死体験)の原因と働きを科学的に解明すること。一方、神経内科医のリチャードは、被験者の脳に臨死体験そっくりの幻覚を誘発する薬物を発見し、擬似NDEを人為的に引き起こしてNDE中の脳の状態を記録するプロジェクトを立ち上げ、彼女に協力を求める。だが、実験にはトラブルが続出し、やがて被験者が不足する事態に。こうなったら自分でやるしかない。ジョアンナはみずから死を体験しようと決意するが…(上巻)

 危機に瀕した研究プロジェクトを救うため、みずから<死後の世界>を垣間見ようと決意したジョアンナ。だが、彼女がNDE(臨死体験)の暗いトンネルを抜けて赴いた先は、思いがけない現実の場所だった。私はこの場所を知っている。でも、どこだったか思い出せない---。ただの幻影だから当然だと言うリチャードに反発し、ジョアンナはその場所がどこなのか、記憶の糸をたどって必死に調べはじめる。とうとう突き止めた答えは、まったく予想もしないものだった……(下巻)




 臨死体験の調査、研究というと、超自然科学系のアプローチを想像するかもしれないが、主人公たちジョアンナとリチャードは、そうした「死後の世界」的な発想を軽蔑する純粋な科学者(場合によっては、むしろその極端な軽蔑振り、決めつけ姿勢から、僕にとってはかえって科学者としての資質を疑いたくなる場面もあるが(大槻教授のように ^^;)、しかしまあ、つまりはきわめて科学的なアプローチで彼女たちは取り組む。

 瀕死の状態から息を吹き返した、いわゆる「臨死体験者」が語る臨死の体験とは何なのか。それは、実際に脳内の何らかの活動を示しているのか。だとすれば、その脳活動の目的とは何なのか?

 この疑問を解くため、ジョアンナは、そうした体験談の収集分析という手法をとる。一方で、リチャードは、脳に臨死体験にきわめて似た幻覚を誘発する薬物の発見から、その薬物による疑似臨死状態での脳内活動の観察という手法を思いつく。
 この二人がそれぞれの手法を付き合わせて、謎に迫る。

 人にとって死とは本当に何なのだろう。
 死を意識したとき、脳は何かをするのだろうか。何をするのだろう。
 そのとき人は何を感じるのか…

 もともとそうしたことを考える僕ではあるが、あらためて、生と死ということについて考えさせられもした。自分が死んだ後ということについても考えさせられた。
 そして、そういうことを考え始めると、今いる大切な人たちのことをもいろいろ考えてしまう。そんな時は、あたたかいような、せつないような、そんな気持ちにもなる。小説の中でも、そうした感覚がうまく織り込まれている。

 もちろん、そうしたある種哲学的な思索を離れても、サスペンス的なものとしても十分に面白い。本来の推理サスペンスものなどより何倍も、推理性、サスペンス性は上だろう。

 お薦めの一作だ。

 なお、ストーリー中、登場人物たちの会話にはしばしば映画の話題や引用が出る。僕はそのほぼ全てを観ていたが、映画好きの人なら、そうした楽しみもある。

 主人公のジョアンナやリチャードを取り巻く登場人物たちも非常にキャラが立った個性的な人々だ。
 ジョアンナの親友でER勤務の看護婦ヴィエル、被験者の一人で太平洋戦争を海軍空母ヨークタウンで戦った経歴をもち、その話を始めると止まらない老人ウォジャコフスキー、心臓病で入院しているが、調べ物の達人であり、災害話マニアの幼い少女メイジー(この子は最高だ)、ジョアンナの高校時代の恩師だが今はアルツハイマー病にかかるブライアリー先生、その姪のキット、死後の世界の実在と死者のメッセージを熱く語りジョアンナやリチャードの天敵であるミスター・マンドレイク…

 また、各章の冒頭には、著名人の臨終の言葉が載っているが、これも面白い、興味深い、なかなか考えさせられたりする。

 最後に、本書から僕が書き抜いておいた文章、そして本書の核心ともいえる文を紹介しておきたい。ジョアンナの恩師ブライアリー先生の言葉。

  メタファーは、たんなる言葉のあやではない。人間の精神の本質そのものだ。われわれ人間は、類似性や対比や関係を見出すことで、自分たちの周囲のものを、自分が経験したことを、自分自身を理解しようとする。われわれはそれをやめられない。たとえ精神がそれにしくじっても、精神は自分に起きていることをなんとか理解しようと努力しつづける。



 これは、まさに脳の本能を語るもの、人間の本能を語るものでもあると思う。

 ここまでを読むと一見、かなり硬派なストーリーをイメージするかもしれないが、冒頭掲げたとおり、「My Heart Will Go On」がBGMとして最適かもしれない、そんな一面がある物語だということを最後に付言しておこうと思う。^^)

 cover cover
 「航路 (上)」 「航路 (下)
posted by Shu UETA at 11:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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