今さら読んだというのも恥ずかしい話ではあるが、つい先日、陸奥宗光の「蹇蹇録」を読んだ。
そこでこれこそ今さら僕が言うのもなんだけれど、こいつは素晴らしい本だ。必読レベルだった。 ^^;)
「蹇蹇録」とは、陸奥宗光とセットで知識としては日本史科目の範囲内だろうけど、どういうわけか、これまで実際に読んでいなかった。
敢えて説明の必要はなかろうかとも思うけれど、本書は、陸奥宗光が、外務大臣として職掌した日清戦争前後の日本外交について概説し、また各場面場面における状況判断と方針策定について相当にくわしく述べたもの。
その状況把握と思考、判断のあり方は実に明晰で、読むほどに僕は感嘆しきりだった。
陸奥宗光はたしか、外交畑では駐米公使を一度やっただけだったと思うが、その外交センス、判断力のたしかさは、たしかな教養に加え、やはり幕末から維新にかけての事上錬磨によるものだろうか。
いずれにせよ、この書は、ケーススタディ的に活用するにも非常に有効だと思う。
外交、安全保障に関心のある向きにはぜひお薦めしたい。
それぞれの状況において、まず自分ならどのように総括掌握し、どのように判断する、どのように方針を策定するか、それを自ら考えつつ、陸奥の考えと照らし合わせながら読むことで、濃密な読書とすることができる。
こうしたケーススタディ的な読書のしかたは、歴史書や戦史についてこれまで僕もしばしばお薦めしてきたことではあるが、「蹇蹇録」は、時の外務大臣自らが著しているという点で、判断に必要な各種情報が相当程度正確かつ詳しく提示されており、まさに格好の教材となり得ていると思う。
僕はかねてから、大臣レベルに必要な思考と判断の能力とは、方針策定能力だと思っている(これは軍隊や企業の上級幹部も同様だろう)が、ことさら、そうした疑似練習に向いている教材だと思う。
この「蹇蹇録」における陸奥の立場、外務大臣というものも、実際に外交のさまざまなレベルで万事を自らの手で行うことはできない。
一連の外交は、各地の外交官の手によって組み立てられていくのだが、それらの行動の基準となる方針をいかに的確に設定し発出するか。
また各級外交官の職責の尊重と、大臣からの訓令訓示の範囲についても陸奥はよく留意している。
と、いうことで、重ねて、今さら汗顔の態でもあるが、関心のある向きに一応のお薦めまで。
新訂 蹇蹇録―日清戦争外交秘録
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