2004年12月16日

(読書) 「戦争はなぜ必要か」

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 先月出たまだ新しい本だが、ぜひお薦めしたい。
 特に、国際政治に関心のある人、及び幹部自衛官である。

 よくあることだが、この本の邦題は、内容趣旨を正確に示していない、どころか全く合致しない。(一体、こんなタイトルで著者の了解が得られるのか… ^^;) おそらくは売り上げを意識したものだろう。センセーショナルなタイトルで、まずは手に取らそうということだ ^^;)
 原題は、The Pentagon's New Map であり、副題として、War and Peace in the Twenty-first Centuryとある。

 では何が主題かというと、米国の新しい戦略構想についてである。そしてそれは「米国の」というより、今後将来、世界標準になる可能性を秘めている。


 著者、Thomas P.M. Barnett氏は米海軍大学教授であり、かつては国防総省の軍変革(Transformation)室で戦略計画補佐官を務めていた人物であり、一昨年にはEsquire誌で「最も有能で聡明な戦略家」に選ばれている。

 The Pentagon's New Mapという原題でピンときた人もいるだろうが、昨年春以来、同タイトルの論文が大いに反響を巻き起こした、その人物である。
 本書は、その論文をさらに詳述したものだ。

 論文に触れた人は既にご存知だろうが、「New Map」と言うとおり、この書の主題、核心は、世界を「Functional Core(機能する中心)」と「Non-integrating Gap(統合されない間隙)」に二分して認識することであり、かつ、この「Gap」地域を「Core」世界側に移行させることを目標とする大戦略の提示である。

 上記の用語の括弧内の日本語は本書の和訳に従ったが、より分かりやすく表現すると、「Functional Core」とは、米欧日を中心とした、経済的にも社会的にも相互に連結した、グローバリゼーションの「core」地域である。もはや互いの相互影響を無視できない国際連結体であるといったものだ。
 対するに「Non-integrating Gap」とは、上記のグローバリゼーションに連結していない、つながっていない、「世界」から切り離された地域のことである。

 「Core」地域には、北米大陸、ヨーロッパ、ロシア、中国、日本、オーストラリアなどが含まれ、「Gap」地域とは、東南アジアからインド、中央アジア、中東、アフリカ、南米といった地域である。

 冷戦後、米国は新たな戦略構想を持ち得ずにいたが、その新たな戦略構想として筆者が提示しているのが、上記のような世界認識に基づき、いかにGap地域をCore地域に移行させ、Gap地域を縮小していくかということだ。

 筆者によると、米国の行動は、Core地域内とGap地域内では異なる基準に従うべきであり、Core地域内では既に軍事力に代わる安全保障システムが、経済、社会の相互関係の中で整備されおり、米国が「唯一の大国」的態度で臨む必要はない、しかしGap地域においては、経済的手法を優先しつつも、場合によっては軍事的手段により「障害」を取り除き、当該地域のCore地域との連結を図り、Core地域化していくことが必要である、今後の米軍の戦略は、かつてのソ連や、今日中国と目されるライバル大国への照準などではなく、Gap地域のCore地域化に必要な軍事作戦である、その対象は例えばフセイン政権であり、金正日政権であるのだ、ということだ。

 実際には詳細、論理的に記述されており、著者の意図をここで綺麗に要約し切ることはできないが、単に軍事戦略という範疇のものではなく、経済、社会面を相当に織り込んだ戦略構想であり、著者自身は、冷戦下でのいわゆる「封じ込め戦略」に匹敵する次元のものであるとしている。

 単に米国の国家戦略というに止まらず、米国が主導し、国際社会全体の戦略構想とすることを目指す点でも、かつての封じ込め戦略と同次元の大戦略といえる。

 今日世界が米国に期待しているのは、米国が今後何をしようとしているのか、どういった構想によってイラクに対し、あるいは今後中東や朝鮮半島に対していくのか、単独主義に進むのか、国際協調にどれほど重きをおくのか…こういったことに対する納得のいく説明である。
 著者自身、こうした米政府の「説明不足」を憂慮しながら、世界に対する「New Map」戦略の説明をすべきであると主張している。

 僕の感想としては、この新戦略構想は、非常に出来がいい。これは必ずしも僕自身が賛成するという意味ではないが、しかし、こうして説明されたならば、それを否定することは非常に難しいだろうと思われる程度に完成度が高い。
 また、実際著者は、国防総省、政府に大きな影響力を持ち、現にラムズフェルド国防長官の戦略顧問から意見を求められる立場にある。

 これをもってしても、この論は一読しておく価値があるだろう。


 ちなみに「僕自身が賛成するという意味ではない」と書いたが、僕が個人的に危惧するのは、その「Gap」地域を、「Core」地域との連結を拒否する地域であるとし、たとえばイスラム諸国を、為政者が自らの権力を維持するためだけに世界との連結を拒む国々であり、これを「Core」社会と連結するためには荒療治も止むなし、とするような米国らしい独善性についてである。
 Core地域とは、あくまで米国のパラダイスであって、いわば「米国化」した世界ともいえる。

 しかし、現に著者の示すGap地域においては、貧困、暴政、暴力、紛争、人権抑圧が絶えず、仮にそれが「米国化」であったとしても、それで人々が幸福になるならば何が悪いと言われれば、なかなか説得力のある反論をすることは難しい。

 僕は(むろん日本も含めて)世界が米国文化に塗りつぶされることにあまり肯定的ではない。
 しかし、今日の日本にとって、米国がもしこうした戦略を採用するならば、それは非常に明快でわかりやすく、対米協力はたいへんやりやすくなるだろうと思う。
 ヨーロッパ諸国についても、中国についても、もしこの戦略が明確に示されたならば、大いに乗るのではないだろうか。仮に感情的に何らかの疑問を感じたとしても、論理的に反論することは難しいのではないか。かつ、ヨーロッパ諸国も中国にとっても、自らの国益に叶うよう、この戦略はできている。

 また、もう一点の危惧は、中国に対する楽観の度合いである。先に簡単に記したように、著者の地図では、中国はCore地域に分類されている。米欧日の先輩Coreに対して「新Core」ということになっている。
 近年の中国の特に経済面における世界との「連結」は確かに顕著だが、依然として言論は統制され、インターネットのアクセス制限も厳しい。また対台湾に限らず、海洋への進出戦略、海空軍増強にも余念がない。
 個人的には、些か中国への楽観視が気にはなった。

 しかし、この戦略は軍事戦略などというレベルのものではなく、真に国家戦略、国際連携戦略たり得る壮大なものである。むしろ、軍事よりも経済、社会面を主としている観さえある。
 「人・エネルギー・投資・安全保障」四つの流れをいかに生むかということが、この戦略の別の大きな側面として語られる。

 今回は本の紹介ということで、そう深く突っ込んだ議論はしないが、いずれにせよ精読の必要があるので、再度精読、熟考の後、追ってこの戦略構想について思うところを記してみたい。

 なお、本書には、そうした戦略に基づいた米軍の組織変革、戦法の変化などについても触れている。
 また、防衛庁の省化が議論されている今日だが、それが防衛省ではなく国防省となるには、どのような問題を扱い、戦略を構想する必要があるか、という点で、1尉〜3佐前後の幹部自衛官にぜひ読んで刺激を受けてもらいたい本でもある。

 個人的に今考えていることは、こうした米国の戦略の中で、日本が採るべき戦略はどういったものかということがひとつ。
 著者は、リヴァイアサン的な攻撃破壊のハイテク軍隊と、システムアドミニレーター的なローテク軍隊(平和維持等)への米軍二分化を説く。こうした中では、日本は後者における米国の右腕となる道も出てくる。
 米国への基地提供の意義、考え方も変わってくる。

 もうひとつは、米国のこうした戦略とは別枠での世界構想、戦略について考えている。

 いずれについても、追ってまた記事にしてみたい。

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 「戦争はなぜ必要か」
posted by Shu UETA at 10:06| Comment(2) | TrackBack(0) | 読書他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
売り上げを目的とした表題には困ったものですね。
我々が求め、価値を見出すのは「情報」や「知識」であって、「エンターテイメント性」ではないはずなのですが。
そもそもそんなことをしたところでどの程度効果があるものやら。
「東スポ」じゃないんですから。もっと正攻法で来てほしいもんです。

ご紹介の本、なかなか興味深いですね。
今度注文してみます。
Posted by 剛田ジャイ雄 at 2004年12月16日 19:50
> 剛田ジャイ雄さん

 はい、この本は一読の価値はあるかと思います。^^)
 今後の米国の発想を(まるごとでないにせよ)ある程度予測もしくは理解する一助になり得るだろうことと、そうしたものに対して日本の戦略を考える上で、よい材料となるように思います。
 また、米国のいわゆる職業「戦略家」という人間の発想法を検分する好テキストでもあると感じました。
Posted by Shu UETA at 2004年12月16日 21:07
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