2004年12月08日

フラッグフットボール

music Footloose / Kenny Loggins

 先日、アメリカンフットボール(以下アメフト)について少し書いたことがあった。目下、NFL(米国のアメフトリーグ)はシーズンたけなわ、いよいよプレーオフ進出を賭けて熱戦モードに突入している。
 そういう場面であるから、僕もいきおい贔屓チームの戦績を気にしつつ、NFL観戦で日々を過ごしている。
 そうした中で、ふと、アメフトの教育価値ということに思い当たった。教育価値というからには、つまり、小学校、中学校における体育教育において、ということである。


 アメフトの最大の魅力のひとつは、その適材適所性、どんな人にも最適のポジションがあり、従って、どんな人でも楽しめる(はず)、というものである。
 フットボールは究極的に分業化が進んだスポーツであり、球技であるにも関わらずボールに触ることがないポジションすらあるということは、以前にも書いた。

 ちなみに僕の手許にある本にはこんなふうに書いてある。

  誰もが参加できる。これはアメフトの大きな魅力のひとつだ。
 身長の高い人、低い人、太った人、痩せた人、走るのが得意な人、ボールをとるのが得意な人、ボールを蹴るのがうまい人…。アメフトのチームは、様々な特徴やキャラクターをもった人間で構成されている。
 プレーしなくても戦略を考えるのが好き、そんな人だってゲームに参加することができるのだ。
 (「アメリカンフットボール ルールと試合」成美堂出版)



 大学リーグでは、以前関西リーグを席巻した京都大学チームが有名だった(もちろん1部リーグだが近年は少し弱い)が、同一リーグの関学や関大と比べて、大学以前からアメフトをやっていた選手は京大では非常に少ない、というより、昔初優勝した頃のチームには経験者はいなかったと聞いた。つまり、大学入学後にアメフトを始めているわけだ。そんなチームが1部リーグで優勝し、東西学生王座決定戦をものにし、社会人優勝チームとの日本一決定戦にも勝利し得たこと、それはアメフトの上記のような特徴と、戦略の高度な関与性を裏付けるものだ。こうした京大のような例は、他のスポーツではちょっと考えがたい。

 さて、そのアメフトの分業の具合だが、ざっくりとごく簡単に説明してみると、いわゆる球技らしいところでは、クォーターバック(以下QB)は最初にボールを手にすると、ランニングバック(以下RB)にボールを手渡すか、もしくはワイドレシーバー(以下WR)やタイトエンド(以下TE)あるいはRBにパスを投げる。
 RBがボールを渡されて走る際には、オフェンスラインの面々が敵をブロックして、RBの走って通る道を空ける。ボールを持たされていないRBやTEもブロックに参加する。あるいは、ボールを持ったRBの前を走ってブロックしながら露払いをする。
 QBがパスを投げる際には、QBがパスのターゲットを見つけ、パスを投げるまでの間、オフェンスラインは、敵の突入をブロックしてQBを守る。

 こうした簡単な説明の段階で、既に各ポジションの適性の差というものが何となくわかると思う。
 QBにはプレーを選択し、あるいはパスターゲットを見つける判断力と、正確なパス能力が求められる。
 RBには、ある程度の突破力を伴った走力が、パスレシーバーには、敵のマークを振り切る走力と、パスをキャッチする能力が求められる。オフェンスラインは、敵の突入への反応と押さえ込む力が必要だ。

 これを逆にすると、ディフェンスチーム側では、ディフェンスラインの面々には、敵オフェンスラインのブロックを破る、もしくは抜けて、敵QBがパスを投げる前にこれにタックルしてQBを倒す、あるいはRBがボールを持って走る際には、やはり敵ブロックをかわすか破るかして、このRBを倒すという仕事がある。
 ラインバッカー(LB)は、敵RB、レシーバーの双方に対処する。
 コーナーバック(CB)等のセカンダリー(もしくはディフェンスバックorディープバック:DB)には、敵レシーバーのカバーや、RBに対する最後の砦としての役割がある。

 オフェンス、ディフェンスともにラインの選手というのは、現にボブ・サップがNFL選手であったように、巨体の人が多く、俊敏性もRBやWRのようなものではなく、むしろ相撲取りに必要なものに近い俊敏性が求められている。

 一方でRBには、NFL選手でさえ身長170cmくらいの選手、それも名選手がいる。

 また、プレーの戦略(戦術)性ということでは、今ここで個々具体的に説明することは避けるが、数知れない戦略(戦術)理論があり、また日々新しい戦略(戦術)が研究され生み出されている。
 (雰囲気を知りたい人は、例えば村田斉潔氏のNFL戦術アナライシスなどをバックナンバーも含め見てみると何となくわかります)

 さてこうしたアメフトの特徴から僕が思ったのが、子供の体育への適合性である。
 例えばサッカーやバスケットボール、バレーボール、あるいはドッジボールでも…そこには必ず一部の限られたスタープレーヤーと、そしてやはり一部には、ほぼ全くゲームに参加できない運動苦手の子供が出てくる。
 思い出してもらえば誰でも記憶があると思うが、上記したようなほとんどの競技(特に児童の)では、一部の子供だけが輝く存在であり、逆にほとんど何もできずつまらなそうにしている子供たちについては、仲間としてこれを何とか引き立てようにも、なかなかうまくいかないものだ。そうした試み自体がまた子供ながらに心をさらに傷つけもする。特に男子の場合は本当にかわいそうだ。

 ところがアメフトでは、ポジションによって全く、実に全く、その役割が異なり、かつ、それら各ポジションの力の集結によってはじめて作戦が成功するようになっている。得意な子が、苦手な子の分まで仕事をしてしまう、言い換えれば仕事を奪ってしまうということがない。

 QBは運動神経のいい、そしてある程度活発でリーダーシップもあるような子(まさに上記の普通のスポーツでスターになるような子)がやればよいかもしれない。RBには足の速い、もしくは走るのが好きな子、レシーバーには走るのが速いにこしたことはないが、ボールの扱いの上手い子、そしてラインには(児童のレベルでは)足の速さもボールの扱いもそう要求はされない。

 だがしかし、アメフトはそのままでは、児童の体育としてはあまりにも危険なスポーツであるのは事実。そこで、フラッグフットボールというものがある。これはアメフトの簡易版であり、サッカーにおけるフットサルのような位置付けかもしれない。

 フラッグフットボールでは、その名が示すとおり、各自が腰にフラッグ(タオルのようなもの)をつけて、タックルをする代わりに、このフラッグを奪われることでタックルされたということになる。
 かつプレー人数も、5人対5人くらいを基準に、わりと自由に人数を設定できる。

 5人の場合、ポジションは、オフェンス側が、QB、RB、C(センター:オフェンスラインに該当)各1名に、WRが2人、ディフェンス側が、ディフェンスライン(DL)、LB各1名に、DBが3人といったところか。
 これが4人ならば、WRやDBを減らせばよいし、6人ならば、RBかWRやLBやDBを増やせばよい。

 RBはボールを持って走る子、WRは遠くに走ってQBからパスを受け取る子(RBもパスを受け取れる。作戦次第)、そしてCは敵からQBを守るのが役割の子だ。
 逆にDLやLBは相手QBを狙う、あるいはDBと一緒に相手RBを止めたり、DBの子は相手WRをマークしてパスをインターセプトする。もちろん作戦によって、LB、DBの任務はさまざまだが。

 こうしたことから、フラッグフットボールについて調べてみると、実際に教育現場での試みが述べられているページがあった。(筑波大学研究レポ

 ざっと目を通すと、やはり僕の想像したような効果が綴られていて、思いをいよいよ強くした。

  フラッグフットボールは、参加する全員に輝く瞬間が訪れるチャンスのあるスポーツです。バスケットやサッカーのように、経験のある子、身体能力の高い子だけがゲームを支配するということはありません。コートのはじっこで見てるだけになってしまう子もいません。司令塔になって作戦をたてる、ボールを持った味方をガードする、能力の高い子を囮にして自分が得点をするなど、どの子にも必ず果たすべき役割が生まれます。フィジカルの弱い子でも、ゲームに参加しているという意識が持てるからおもしろい。
 ゲームに参加していれば、誰もがヒーローになれるチャンスがあるからおもしろい。足の速い子、作戦をたてる子、駆け引きが上手な子、チームスポーツというのは、さまざまな能力を持った人間が、それぞれの役割を果たしていることを知り、いろんな個性が 一致団結することでものすごいチカラが出るんだということが自然と学べるスポーツなのです。



  私たちにとっても思いがけない出来事がありました。体育がずっとキライで6年間過ごしてきた女の子がいたんです。バスケットなどの球技では一度もボールに触らずに、見てるだけになってしまうような子だったそうです。でも、フラッグフットボールの授業では、自分のチームがタッチダウンを決めたりすると、みんなといっしょになってものすごく喜んでたんです。その授業が終わったときには、ああ楽しんでくれたんだなぐらいの気持ちだけだったんですけど、これには後日談がありました。数日後、お母さんが学校を訪れたときに、担任の先生にウチの娘がものすごく変わったと仰ったそうなんです。「娘が急に体育が好きになった。体育の授業がある日が待ち遠しくてしょうがないと言ってる。いったい何があったんですか」と。彼女は足も遅いし、ボールも投げられない、受けられない。しかし授業では、チームメイトを守るためにガードという役割を担っていました。フラッグフットボールでは、必ず全員に何かの役割が与えられます。
 そして、自分が果たしている役割がどういう結果を生みだしているのがわかりやすい。自分のプレーがチームの得点を生んでいるということが、彼女自身にも感じられたんだと思います。いままでの球技の授業では疎外感を感じていた子が、初めてチームに参加したという意識を持てた。自分がチームや仲間に貢献できるという実感を持てた。これはこの年代の子供たちにとっては非常に大きな自信につながります。


 このエピソードなどは、なんだか情景が浮かんで、感動してしまう。よかったなぁ…と。子供の頃のほんの小さなことは、その子の人生に大きな影響を与えるものだから。


 一方で、当初予測したこと以外に考えさせられることが、このサイトの記述にはあった。それは、"On the ball skill"と"Off the ball movement"ということについてである。これも引用してみよう。

  球技の重要な要素というと、On the ball skill(ボールを操作する技術)とOff the ball movement(ボールのない状況での動 き)、この2つがあると言われています。これまでの日本の学校教育では、On the ball skillばかりを教えてきたところがありました。これは球技というよりも体操に近い。球技の本質的な部分を楽しもうとすると、球技の核はOff the ball movement にあるのではないかと、現在では考えられています。ボールを操作する技術も、もちろん学ばなければいけないことなんですが、球技の持つゲーム性、戦略性を知ることで球技を楽しいものにしてあげることが大切です。(中略)ボール操作に意識を使わない分、まわりの状況がよく見える。すると球技を行う上で大切なスペースを見つけたり、そのスペースを活用したりということが自然にできるようになります。


 Off the ball movement とは、非常に示唆に富んだもののように僕には感じられる。たとえばサッカーなどにおいて、日本の選手と世界の選手を比べたときに、もちろん On the ball の技術的な点もさることながら、それ以外に感じる何か…それはむしろ Off the ball movement ということではないだろうか、そんなことをふと感じた。

 随分長くなったので詳述は避けるが、しかも、こうした Off the ball movement ということはスポーツに限らず、仕事などでも似たような重要性が言えるのではないだろうかとも思う。

 このblogを読んでくれている人に、小学校などの教員の方がいるのかどうかわからないが、もしおられたら、ぜひ一度、フラッグフットボールというものを検討してみていただけたらと思う。(既にかなり普及しているということも前掲サイトに書いてあったので、今さらなのかもしれないが ^^;)

 フラッグフットボールについてはいろいろなサイトがあるが、例えば、
 NFL Flag Football Official Site
 日本フラッグフットボール連盟

 また、僕の大好きな村田斉潔氏の活動紹介としてもこんなものがあった。
 小学校体育教師研修会で、Xリーグ・ファイニーズの村田ヘッドコーチが指導


 ついでながら、フラッグフットボールのこうした普及が進めば、いつか、日本のアメフト人口や人気も高まり、アメフトのプロリーグが誕生する日も来ないかな…というささやかな期待を僕は持ってもいる。^^)


posted by Shu UETA at 09:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 天下-教育・科学・文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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