2004年11月23日

(読書)「間諜洋妾おむら」

music Danger Zone / Kenny Loggins

cover cover

 「間諜 洋妾おむら(かんちょう らしゃめん おむら)
 杉本章子 著 文春文庫 上下巻


 久し振りに、かなり面白かった歴史小説。

 まずは、文庫本裏表紙にある あらすじ表記より…

 <上巻>
 生麦事件に揺れる幕末。売れっ子芸者のおむらは薩摩藩士の恋人のため洋妾(らしゃめん)となり、英国公使館に潜入した。果たしておむらは間諜(=スパイ)として英国の動向を探ることができるのか?そして黒船を背景に強い圧力をかけてくる英国に対し、幕府と薩摩藩はどのような策をとるのか…維新前夜の日本外交を描いた傑作歴史長編。

<下巻>
 英国艦隊を率いるキューパー提督の寵愛を受けながら、薩摩藩の間諜として英国公使館で情報を得ようとする洋妾(らしゃめん)おむら。しかしあるときその正体が露見しそうになる。一方、日本での権益をめぐる英・仏・米の思惑が複雑に交錯する中、幕府はある決断を下す。維新直前の緊迫する日本外交を緻密に描いた傑作歴史ロマン。



 これでだいたいのテーマはわかると思うが、僕個人の感想としては、(一応)主人公である「おむら」の間諜(スパイ)としての活躍は、たいして面白くないし、上記にあるほどの緊迫感も、手に汗握るようなこともない(あるけど、たいしたことない ^^;)
 しかし、この、おむらなる人物が実在の人物、実在のスパイであったということには、正直驚いた。皆さんも、少なからず驚かれるのではないだろうか?

 さて、にも関わらず、おむらの活躍自体がさほど面白くなかったという僕にとって何が面白かったかというと、幕府役人と諸外国外交官たちとのやりとり、駆け引きである。
 もちろん、こちらも全て、事実に即したストーリーであり、登場人物も実在の人物である。

 僕はかねてから、幕末幕吏の無能さをあげつらう論には懐疑的だが、あの苦境の中で、幕府役人は非常によくやっている。素晴らしいと思う。あの状況では誰が担当しても、あれ以上のことはできまいと思う。
 実に歴史の意志のようなものを感じるというか…いかに彼らが努力し、苦心したとて、次から次へと苦難は起こり、どうあっても幕府の文字通り「幕」を引けという天意のようなものに抗せずして、去りゆく者となる彼らの悲運に同情を禁じ得ない。それは本書においても同様である。

 本書では、左様な苦境の中で奮闘する幕府中堅役人たちの気概に触れることができる。まさに気概!滅び行く側ではあるが、僕らは、彼らの気概を学ぶべきと思う。

 一方で、英国公使のニール。
 本書において彼は一方の主人公とも思えるが、彼からは、外交のなんたるかということが学べる。
 彼は、後には女王から勲章を授与されることになる優れた外交官なのだが、本書中における彼の思考、発言からは、外交というものの基本を大いに学ばされた思いがした。

 時に、目下我が国は北朝鮮との交渉中にあるが、ふと、幕末期における幕府の一見のらりくらりとした、信義に悖るかにも見える、諸外国に対する外交交渉態度は、今日における北朝鮮をも思わせる。(もちろん内実はまるで異なるだろうが)
 これに対する英国公使ニールの交渉姿勢の緻密さ、忍耐、懐柔と恫喝のバランスの絶妙といったらない。
 外交の基本に返る、ではないが、目下北朝鮮との交渉にあたっている担当者たちにも、ぜひ本書でニールからそれぞれに何かを学び取ってもらいたいものだとすら思う。

 小説としては、おむらの存在感の微妙さ(必ずしも存在意義を僕は感じない ^^;)、エンディングのあっけなさ、締まりのなさなど、惜しいところもあるが、しかし、「官僚の気概」「外交交渉の何たるか」この二点をもって、僕にとって実に有益な署だった。

 ぜひ一読をお薦めしたい。^^)

 本書より
  外交とは、自国の威信と国益を賭けた知恵くらべ、あるいは駆け引きである以上、ある種のはったりや恫喝を抜きには語れない。しかしまた、外交ほど信義と誠実を求められるものはないのである。(ニール)

 「これは豊後殿よりの又聞きにありまするが…」
 と前置きした竹本は、かつて小栗から聞いた函館奉行組頭栗本瀬兵衛と、栗本に和語を教わっていた仏蘭西人宣教師カションのやりとりを話しはじめた。
 諸外国と修好通商条約を結んだ安政六年(一八五九)のことである。
 某日…栗本はカションに、修好の条約を締結したということは、両国間の和親が永世に維持されることと解してよいか、と訊ねた。するとカションは苦笑して、東洋はいざ知らず、西洋には条約を結んだら、相手国との戦仕度に入れという言葉がある、と答えたのである。
 あきれて言葉に詰まった栗本を前に、カションはそういう覚悟あっての真剣の交わりこそが、相互の和親を牢固たるものにするのだと説いた。であるから、相手国と国力、武力が対等でなければ、真の和親は成り立たないとも言った。
「最後にカションは、貴国も大小六百ばかりの艦船、それに相手国に劣らぬ火器を持たなければ、真の修好通商条約を結んだことにはならぬ、と申したそうにござりまする。彼我の国力を思いまするとき、攘夷がいかに非なるものであるか、ご賢察のほどたまわりたく…」
 竹本は、せつせつと両老中に訴えた。

 そもそも外交官たる者は、いかなる事態に直面しようとも冷静沈着を保ち、交渉にのぞんではあるいは説得、あるいは譲歩、ときには恫喝といった外交術を駆使して、国益の擁護に努めなければならず、愚直な人間に勤まるものではないのである。(ニール)



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posted by Shu UETA at 03:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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