2005年12月15日

シーレーン防衛


 シーレーン防衛というと、僕が子供の頃に随分と一世を風靡したことのある言葉だが、先日の前原民主党代表の講演で提示されたビジョンに、「1000海里以遠のシーレーン防衛にも責任を」ということが語られていた。
 (※僕が小学校の頃には日本の資源の輸入比率なんかの下敷きが配られたりした ^^;)

 シーレーン防衛というと、たいていは海上航路の安全、それも中東から日本に至る航路の安全ということがイメージされるだろう。
 ところが、1000海里云々ということ、それからシーレーン防衛なるものの具体的手段ということになると、なかなかイメージを持ちにくい向きも多いと思われる。
 また、これらのイメージをある程度持ち得たとしても、そこで前原代表の言う1000海里以遠の責任への参加であるとか、さらには多国間での枠組みということになると、僕もちょっとその趣旨を明確には想像し難い。

 僕自身は実は海上作戦については専門ではないのだが ^^;)、海だの空だの言わない(時代は統合だしっ)いわゆる防衛教養的範疇において僕の認識する範囲内で、シーレーン防衛の概観を紹介しつつ、果たして前原代表の想定するところを考えてみたいと思う。



 基本的に誰しもがイメージするだろうように、シーレーンとは「海の道」といったもので、「sea lane」と綴られる。

 海の道、航路、としては、「lines」とも表現されるが、「lane」では「線」よりも「幅をもった通路」といったニュアンスが出ている。
 そこで、「sea lane」とは、「海上航路帯」などとも邦訳されるが、一般にはそのまま「シーレーン」といったほうが日本でも通りが良いようだ。

 さらに軍事用語的には、SLOC (Sea Lane of Communication) という用語が一般的であり、この場合の「communication」は単に「通信」ということではなく「交通」「通交」とでもいった意味合いになる。

 ところが、(少なくとも僕の認識するところでは)思想史的には、初期の「海上輸送防護」ということの次の世代に「SLOC」という概念は属しているとも考えられ、
 つまり、さきの大戦中にドイツの通商破壊戦に対して英海軍が行ったような護送船団方式のような直衛方式から一歩進み、その通路そのものの安全、ひいては支配(というかコントロール)を企図するのが「SLOC」という発想であろうと思う。
 (ちなみに、さらに今日においては、COWOC (Consolidated Ocean Web of Communication)という概念も提起されているやに聞く)

 日本でシーレーン防衛ということが政治的に言われ始めたのは、底流としては冷戦下における米ソの海洋核戦力の対決構造における、ソ連の軍事戦略的SLOCと日本の国家生存的SLOCの大部分での一致、さらにそれを踏まえて日米共同作戦上の分担ということがあり、そこに石油ショックが加わって日本の資源輸送ルートへの意識が高まったこと、それらによるものだったと思う。

 しかしながらこの時点で言われたシーレーン防衛ということは、実際にはSLOC思想というよりは、船団護送方式が想定されていたように見える。
 それは、わが国の政治的特性上、専守防衛という枠を踏み越えずに世論の納得を得るため、商船を直接守るということでなければ、なかなか了解を得ることができなかったということも一因したのではないかと思われる。
 (専門外ながら僕の一応の認識では、現体制の護衛艦8隻単位での直衛ということであれば、タンカー等で例えば5列縦隊の50隻を護送するといったところが原則的な上限かと思う)

 直衛を「点」の防衛とすれば、「点から線へ」というのが本来のシーレーン防衛で、国内では中曽根防衛庁長官、そして中曽根政権時代に、大いに構想されるようになった。

 わが国シーレーンの広大さ(わが国周辺に限定しても広大)と装備能力の点でさまざま紆余曲折した後、今日までの態勢が徐々にできてきた。

 その態勢を概略すると(概略しか知らないのだが ^^;)

 まずバシー海峡から西、そして北緯20度より南は、米国のグローバルな防衛力に委ねる。
 前者より東、後者より北のエリアを日本が対処するわけだが、

 ざっくり言うとそれは、南西諸島ラインと小笠原からパラオ諸島ラインに挟まれた領域というふうにとらえる。
 (要すれば地図を出してみてください)
 九州沖縄から南西諸島までの島嶼線と、
 東京の南、小笠原諸島からマリアナ、西カロリン、パラオの島嶼線、
 このそれぞれに探知エリアが重なり合うように固定ソナー網を設置して漏れなく監視エリアとし、さらに対潜哨戒を行なって、この二つのラインを突破して潜水艦が内側に入らないようにするというのがまずひとつ。
 (探知覆域のレンジ、重なり具合は、言っていいのかどうかわからないので今日は省略)

 小笠原〜マリアナ…方面は底の平坦な深海であり、かなり上空からの哨戒飛行とパッシブ探知でも見通しがよいが、南西諸島方面は、アクティブソナーも使いつつ、低空飛行も必要で、覆域を広くとりづらいので、飛行数、コースどりを多くする必要もあるし、また相当神経も使うことになる。

 この二つの島嶼線の内側で、四国沖からパラオの西あたりまでの直線帯が、いわゆるシーレーンであり、およそ1000マイルだ。
 前述の、両島嶼ラインを敵性潜水艦に突破させないという前提のうえ、島嶼線の内側エリアは、護衛隊群の護衛範囲とする。

 地図を、と言ったものの、一応イメージだけでもと、GogleMapの衛星写真に僕がすさささっと落書きしたものを。
 (あくまでイメージアップのためなので、落書きのようで申し訳ないけれど、まあこんなカンジだ)

 sloc1.JPG

 そこで、本土から伸びてきた航路帯がミンダナオ島とパラオの間で、中東方面、豪州方面、米大陸方面へと分岐すると思ってもらえば良いと思う。

 (余談だが、冷戦下を通じて従来海自が分担してきた重要任務は、この両島嶼線エリアの対潜網と、そして宗谷、津軽、対馬の三海峡のコントロールだった。もっとも、宗谷海峡のコントロールは事実上不可能であったろうけれど)

 (もうひとつ、これらを踏まえて、しばらく前まで中国がわが国周辺で営々と行っていた海洋調査や、潜水艦の侵犯事件を考えてみてほしい。もっとも、調査等はひととおり完了した観もあるが ^^;) ちなみにもちろんSLCO防護の問題だけでなく、台湾有事における米海軍の行動掣肘ということも問題だ)


 さて、そこでだが、
 前原代表の言う1000マイル以遠というのは、このイメージでいけばその3つに航路が分岐する点より先の部分について、というふうに考えることができる。

 そうした場合、上で見てきたわが国南西方面の防護において島嶼ラインをうまく活用してもなお相当程度の装備数が必要であるところ、これより以遠においても同等の防護を行なうことは、かなりの装備規模拡大と、沿岸地域における基地等の提供(少なくとも利用と役務の提供)が必要になるだろう。

 であれば、有事における海上輸送については直衛方式によるしかなかろうし、しかし、「シーレーン防衛に責任を持つ」というのは、平時からの態勢(プレゼンス)の問題であるし、かつその態勢がとれないならば、その「責任」は、他国商船等についても海自艦艇が直衛するという協定の形をとるのがせいぜいだろう。

 ちなみに、僕の考えでは、今日及び近い将来の戦争態様を考えた場合、かつてのような通商破壊戦という形よりも、海上交通路上の要所のコントロール、つまり、海峡のコントロールや、ハブ港湾のコントロールということがきわめて重要になってくるだろうと思う。

 海峡の通峡防護能力、あるいは海峡封鎖に対する啓開能力といったものがカギとなる場合、海上自衛隊はその困難さを非常に理解していると思う。
 なぜならば、戦後永年、(先ほど少し触れたとおり)宗谷、津軽、対馬といった海峡のコントロールを常に研究してきた実績があるからだ。

 例えば宗谷海峡については、北海道北端の形状を思い出してもらえばわかるとおり、ロシア側に飛び出した形になっており、周辺はロシアの航空基地やミサイル陣地に取り囲まれている。
 ここを封鎖しようとする作戦は、おそらく、完全にロシアの航空優勢下で挑戦することになるであろうし、それ故に、冷戦下においても、きわめて困難、事実上不可能と考えられていた。

 一方津軽海峡などは、大いに日本のコントロールが効きやすいが、そのような場合に留意されたのは、ソ連軍や北朝鮮軍の特殊部隊だった。いわゆるゲリラ、コマンドー部隊の少数浸透による要地攻撃が危惧された。

 こうした国内の例だけから考えても、海峡コントロールは、封鎖にせよ通峡、啓開にせよ、航空優勢の確保、さらには航空打撃力、また陸上作戦能力までが必要になるのであって、米海軍の空母機動部隊のようなワンセットの能力がなければ、これを国際あるいは他国海域で実施することはまずできない。もしくはできるためには、そうしたまさに今述べたような戦力を整備する必要がある。

 そうして考えると、日本が空母機動艦隊を保有するということを除けば、日本が現在の1000海里以遠においても責任を持つというのは、「応分の責任を」という形で、例えば米国の任務の一部を分担する、あるいは諸国共同での枠組みであれば、やはりそこで何らかの部分を分担するということでしかないと思う。
 そしてその場合、日本にできることとすれば、艦艇による哨戒・掃海能力の部分(エリア)的提供ということであり、あるいは多国間枠組みであって沿岸基地の使用ができるならば対潜航空哨戒を含み得るか、といったところだろう。

 つまり、日本単独でということはまず不可能であり(繰り返すが、現状の装備方向性においては)、それが米軍とのものであろうと、あるいは多国間枠組みであろうと、集団的安全保障の枠組みということになるだろう。
 前原氏が、集団的自衛権を認めるように解釈変更が必要になるというのは、そういうことだろうと思う。

 ところで、その前原氏は、北京においては、そのシーレーン防衛の共同枠組みには中国の参加も、と言っていたが、もしそのようにして日中露〜沿岸諸国での枠組みということになれば、これは(海上交通に関する)相互安全保障条約的なものであり、あるいは一種の信頼醸成措置のようなものであって、実際の有事の機能性ということでは疑問も出てくるのではないかと思う。

 例えば中国が参加して中国が担任する(あるいは共同する)重要海峡であるとか重要港湾が、場合によっては(要は何らかの形での有事において)中国の作戦に資するだけになる可能性は高い。(これは中国から見ても同様だろうけれど)

 そうしたことを考えると、前原氏が、さながら米国講演に対する中国の反応を見て多少のリップサービスだったのかどうか、とにかく中国も含めてみんなでやろうというシーレーン防衛というのは、どのようなものなのか、非常に興味がある。
 単に海賊対策ということであれば(本質的にそれは軍事より「治安」だが)ともかく、軍事的には、有事の有効性等ではなく、平時のプレゼンスということでもなく、相互信頼醸成措置の一環といったものになるのではないか。

 あるいは中国を誘ったということがリップサービスならぬ、口を滑らせたということであれば、例えばあくまでも日米同盟の名においてとか、あるいは日米にインド、さらに東南アジアの島嶼国を加えた枠組みでということならば実効上有意義であると思う。

 そのあたり、今後の前原氏の説明に注目したいと思う。


posted by Shu UETA at 22:49| Comment(0) | TrackBack(2) | 天下-安全保障・外交 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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