2005年12月11日

前原ビジョンの波紋


 民主党前原代表の米国での講演が波紋を呼んでいる。

 講演についていまさらここで紹介するのも何だが、一応念のため、代表的記事を紹介。

 中国軍増強は「脅威」 民主前原代表、ワシントンで講演(朝日)
 前原代表、米でシーレーン防衛拡大へ憲法改正を訴え(読売)

 ここで述べられる中国の脅威、日本のシーレーン防衛能動化、集団的自衛権行使を可能とする改憲、こうした論に対して、民主党内においても、また特定のマスコミにおいても、非難続出といったところだ。

 党内といえば当然黙っていられようはずもない一方の首魁、横路氏は早速こうした反応を示していた。

 横路民主元副代表、前原外交ビジョン「党の方針に反する」(日経)
 横路氏が前原ビジョンを批判(道新)

 僕個人としては、前原代表の認識は実にもっともな話、それこそ健全野党の成長に期待したいところだが、しかし、前原代表の今後が心配ではある。果たして小泉総裁並の党内手腕が発揮できるか…



 前述の朝日、読売の記事の概要は次のようなもの。

 
民主党前原代表は日本時間9日早朝、ワシントンの戦略国際問題研究所で講演

 日本に食糧やエネルギーを運ぶシーレーンの防衛について、「死活的に重要で、米国に頼る日本周辺の1000カイリ以遠についても日本が責任を負うべき」と訴え、「これを可能にするには、憲法の改正と自衛隊による活動および能力の拡大が必要になるかもしれない」と述べ、シーレーン防衛拡大のための憲法改正に積極的な考えを示した。
 またシーレーン防衛の範囲について、「中東から原油を運ぶシーレーンはマラッカ海峡からインド洋、ペルシャ湾まで通じている。多国間協力の枠組みを作り、その中で日本も役割を果たすことが現実的だ」と述べた。

 第三国からのミサイル発射、周辺事態など日本に直接危機が及ぶ可能性のある場合は、「現在集団的自衛権の行使と認定され、政府が憲法上行えないとしている活動について、行使できるよう憲法改正を認める方向で検討すべきだ。集団的自衛権の行使は、日本の主体的判断に基づいて行われるべきだ」と述べ、国際貢献活動については「国民の理解の得られない国際貢献については、米国の協力要請を断る場合は十分ありうる」とするなど、日本の主体性を強調した。

 中国の軍事力増強・近代化を「現実的脅威だ」とし、東シナ海のガス田問題や原子力潜水艦の領海侵犯事件などをあげ、「中国による領土、海洋権益の侵犯の動きが見られる」「毅然とした対応が重要だ。中国が既成事実を積み上げるなら、日本としては、係争地域での試掘を始めざるを得ない」と語り、対中外交については「対話と関与、そして抑止の両面で対処すべきだ」と述べた。

 在日米軍再編問題に関しては、「キャンプ座間に移転する米陸軍新司令部の機能と目的は、『極東』とする日米安保条約の地理的範囲を超えている。日米安保を再定義する必要も含めて、十分な議論が必要だ」と述べ、「安保再定義の必要性を含めて、日米間で十分議論することが肝要だ」として、「極東条項」見直しなどが必要との認識を示した。

 東アジアサミットについては「東アジア共同体を進化させるべきだが、米国は排除されるべきではない。米国抜きでアジア経済の発展はあり得ない。日本が積極的な懸け橋になるべきだ」とした。



 これは両社の視点による報道だが、正確には、民主党HPでの「民主党のめざす国家像と外交ビジョン」(米戦略国際問題研究所(CSIS)での講演原稿)を参照されたい。

 対して、前掲の日経、道新による横路氏の反応は次のようだ。

 
 前原代表がワシントンで発表した外交ビジョンについて「民主党の方針に反するもので、非常に問題が多い」と強く批判

 特にシーレーン防衛拡大の必要性や中国を「現実的脅威」と指摘したことについて「日本の経済活動を軍事力で守っていく発想だ。アジアの中の日本が(周辺国との)友好を考えないでどうするのか」と強調

 「(前原代表は)小泉さんと同じ内容の発言をしている。二人とも、小さな政府へ向かう競争をしている」と指摘、「カレーライスかライスカレーかというように、(自民党と)名前は違うが中身は何も変わらないということなら民主党は次の衆院選でも得票を減らして負けてしまう」との見方を示す




 今朝のテレビでは例えば「サンデーモーニング」だと、関口宏なるタレント司会者が、何かに取り憑かれでもしたのかと思うくらい ^^;)、えらくボロクソに前原代表を批判していた。
 いわく、「一体何を考え違いしているのか」「自民党と同じようなことを言うなら野党の存在する意味はない」「これではわが国は与野党が無い国と思われて外国に恥ずかしい」云々、云々…
 もちろん放送局が放送局なので、この芸能人と同様、一応の評論家という出演者たちも口々に非難を競っていたが。(そういうスタジオ中満場一致の偏りこそ不健全の極みだと、いい加減理解してほしいものだ ^^;)

 もし自民党総裁と民主党代表がそろって「憲法改正反対」を主張したと仮定すると、その場合においても、かのタレント氏が、「与野党が無い国と思われて恥ずかしい」などと言うだろうか。
 まさかあり得まい。諸手を挙げて歓迎といったところだろう ^^;)
 結局、どのような理屈をつけようと、要はまず「憲法改正反対」(おそらく正確には「9条をいじること反対」)という自らの立場ありきであり、それに反するものを非難しているだけに過ぎない。

 ところが、このフレンドパーク支配人氏はともかく、一応の知識人ということになっている人々、評論家、政治家等々の諸氏にも、このように、自らの主張において本道を踏まえた議論ではなく、その他さまざまな傍論、枝葉の理屈をもって主張し、議論する態度は非常に多く見られる。

 今回でも、前原氏のビジョンには反対である、憲法9条の改正などはとんでもない、なぜなら…、とでも言えば余程真っ当な話だと思うが。
 与野党云々などということを言うので、例えば僕に「じゃ、自民が改憲反対って言ったらどうなの?」と突っ込まれれば困ることにもなるだろう。

 僕の考えでは、ここでしばしば書いてきたように、与野党は万事につき対立政策を持つべきとは思わないし、それは実に稚拙な、そしてそうしたことを言う人の論に反し、民主主義においてもむしろかえって「未熟」な考え方だと思っている。
 そのような考え方に立てば、政策は、「どうするのがよいか」「どうあるべきか」という本来の思考、議論よりも、「あっちはこう言うから、うちは逆に」とか「相手と違いを出すのに何かよいものはないか」といった思考過程に陥りがちだ。これは本末転倒だ。

 党派によって理念や思想立場が異なれば、主張に差が出てくることは自然だが、しかしbestもしくはbetterを求めていった結果、認識や見解が一致することがあってもよいし、全ったく無いとしたらむしろそれのほうが異常であるとさえ思う。
 価値観や認識に何らかの一致を見た場合であっても、その方法や手段をめぐって競うということは十分健全なことであって、認識や方向性からして無理にでも差がなければ与野党の意味が無いなどとは、愚かな主張だ。
 (現に今回の前原代表のビジョンでも、これは現時点では自民党よりも数歩先までを述べているものであって、共通の土台の上にあろうとも、前原案が優れていると僕などは思う。つまり例えば僕の審判では(この点に限れば)いま民主党の方が勝っているということにもなり、「自民と同じ」「差がない」ということではない)

 今回はちょうど外交、安全保障に関わる問題がテーマになっているが、例えば(これも僕が常々出す例だが)実質的に二大政党制の様相を呈している米国において、かつての冷戦期における安全保障戦略の大枠につき、共和党・民主党の両党が戦略思想を共有せずに政権交代のたびにコロコロと戦略を変更するなどといったことはあり得なかったが、だからといって、安全保障分野について争点や政策競争が無かったということではない。

 そもそも国家の基本的な大方針、大戦略に属するような点において根本的な相違があるような政党間で二大政党制などということは成り立たない。(安定国家たりえない)
 いつも言うように、僕個人はことさら二大政党制などということに思い入れはないが、民主党やその支持者の人々が言うように二大政党制に移行したいのならば、その二大政党の間では、最も根本的な国家像であるとか戦略といったベースのところでは一定の共通認識と価値観の共有が図られるべきだと思う。
 その上で、その実現手法をめぐって積極的に政策が競われ、国民の評価を受け、選挙で審判、選択される。
 こうした最も基本的な価値観共有をもたない他の野党は、政権交代政党(二大政党)ではなく、議会におけるブレーキ役、安全装置的野党(「たしかな野党」?)というのが存在意義だ。(長期的スパンでの歴史的政権交代候補ではあるが)

 そこで、自民と民主の間でも、常設の国家戦略会議なり委員会のようなものを整備すべきだと僕はかねて主張しているわけだ。

 それが、ことごとに引き合いに出される大政翼賛会のようなものでないのは、米国において共和党と民主党が米国的価値であるとか安全保障における根本思想を共有しつつも決して野党として与党に翼賛的でないのと同様だ。

 民主党がそうした基本レベルでまで一々与党にに対立していなければならないという人は、民主党にかつての社会党の役割を期待していることになるだろう。それは安全装置野党であって、政権交代野党ではない。

 であるから本当を言えば、もし二大政党制を日本で実現したいとすれば、やはり政界再編が必要になるはずだ。
 つまり、現自民党と、民主党の保守派、これを合わせてここから二大政党をつくる。(ここでは右派左派とかいうより、自由主義的傾向の度合いによって分かれるのがよいのではないかと僕などは思うが)
 そして、民主党の革新系は、あらためて「たしかな野党」を志向する政党となるべきだろう。その際、社民党と合併するかどうかはどうでもよいが、一定程度の「たしかさ」を持つには、やはり統合したほうが良いだろう。
 さらにこの他に、二大政党と状況次第で(たとえ個別政策レベルに限っても)そこそこ折り合いがつき得る立場の小政党があってもよい。これは「たしかな野党」というよりは「キャスティングボード政党」ということになる。
 政権交代政党A、B、キャスティングボード小政党C、安全装置的中小政党D、E、といったところか。(僕の中での現時点での比定では、CとDは情勢により入れ替わることもあるかとは思うが)

 そして、長期的スパンの間に諸状況や国民意識の変化に伴って例えばDが大勢力になってくれば、やがてまた次なる再編が行われる余地が出てくるだろう。


 話は少しく代わって、
 ついでながら横路氏のコメントだが、
 まず、自民党と同じではないかという氏の批判については上述と同じ。

 中国に対する認識だが、
 前原代表が、中国の現実的脅威を認めている点について、
 氏は、「日本の経済活動を軍事力で守っていく発想だ。アジアの中の日本が(周辺国との)友好を考えないでどうするのか」と言っているようだ。

 まず国家の軍事力とは、国家の主権と国民の生命、財産等を防護する最終手段であって、こちらが望むと望まざるとを問わずやむを得ず最終手段に訴えられた場合には、経済活動とて防護対象にならぬはずはない、これは当然のこと。

 「友好を考えないでどうする」という言については、国家間の友好ということを政治家として甘く非現実的に考えすぎではないか。
 安全保障において「脅威」となるのは、相手の「意図」だけではなく「能力」そのものだ。
 そうした相手国の「能力」に対して無防備になることが「友好」ということではない。例えば仮にここでの例のように中国を考えれば、近年の中露、中印は相当に友好関係が進んでいるが、しかし、いずれの関係においても互いの軍事脅威を度外視しているのではなく、どちらかというとむしろその脅威を認めたうえでの友好だ。
 「脅威」であると言うことは、イコール「敵視」ということでは全くない。

 しかも中国について言うならば、
 中華人民共和国成立以来、
 1949年 東トルキスタン併合、チベット侵攻
 1950年 チベット併合
 1959年 中印戦争
 1974年 ベトナム領西沙諸島侵略
 1979年 ベトナム侵攻
 1992年 ベトナム領南沙諸島領有宣言
 1995年 フィリピン領ミスチーフ環礁侵略、領有宣言
 1997年 フィリピン領スカーボロ環礁侵略、領有宣言
 1997年 日本領尖閣諸島領有宣言
 2004年 原潜日本領海侵犯事件
 これらの流れの上で、近年の軍事力近代化、軍備拡大の傾向がきわめて顕著であるに加え、日本については国策として反日教育に力を入れている(90年代から顕著)。
 このような国が、その能力においても意図の可能性においても、「脅威」たり得ないというのは、夢想家か中国の代理人かでなければ言えないセリフだろうと思う。

 そして、繰り返すが、そうした脅威を認め一定の対応をとることと友好関係の構築は、両立するものだ。あるいはそうした力なくしては友人になどなれないものだ(特に中国という国は)。

 前原代表とて、中国との友好関係は十二分に重視しているはずだ。

 とかく、このように、前原氏のような人間と横路氏のような人間の間では最早、議論さえ成立し得ないかもしれない。
 そんな勢力が強大に跋扈する党内を、前原代表は果たしてうまく切り盛りしていけるのか、心配だ。
 そもそも論をいうならば、そういう立場を貫いてきた前原氏を選んだのだから、民主党としてもこれに非協力であるのは無責任なのだが。

 無責任といえば、今回の前原代表のビジョン表明に対する非難として、選挙において民主党に票を投じた有権者の意図を裏切るのではないか、というものがある。
 そしてこれは、一定のスジが通った批判だと思う。
 しかし、無責任というならば党首としての前原氏ではなく、やはりここでも民主党の数合わせ、呉越同舟振りに問題があるはずだ。
 横路氏と前原氏や鳩山氏が共存するような政党には、憲法問題にせよ安保問題にせよ何にせよ、根本的に立脚する思想(場合によってはイデオロギー)を異にする人々が混在している。
 そのような党については、党内のどの勢力の支持を意図して投票しようとも、トータルには党は責任を取りきることができないようになっている。
 そういう意味でも、やはり本来あってはならない政党だと思う。(再編すべし ^^)

 (しかしさらに言えば、投票する側も、民主党がそういうところだというのは承知で投票しているはずだ。西村真悟氏から横路氏までいるような政党だ。なんとなく反自民だのなんだのの雰囲気で投票するからそういうことになるのであって、かねて僕も口を酸っぱくしてここでも書いてきたことだ。本当に改憲反対や安保問題を思うなら社民党だってあったのだ。今回の前原代表の言に「そんなつもりでなかった」と怒る投票者の票はしかし、比例代表で西村氏のようなある意味前原氏以上の人物をも当選させているのだ。…まあ西村氏はもういないけど ^^;)それでもなお民主党に投票した人々に、こうしたことを非難できるとは僕には思えない)

 しかしいずれにせよ、そうした党内をだましだましであれ取りまとめていくためには(あるいは政界再編をするにしても)、昔の自民党の三木武吉や大野伴睦といった往年の、あるいは金丸信や野中広務氏といった、「寝業師」が前原代表には必要かもしれない、懐刀として。(ちょっと今そういう人材が民主党内に思い浮かばないが…)

 最後に余談だが、寝業師といえば、もう随分と昔の記事になるが、開発俊輔氏の寝業師と立業師が面白い。^^)

 (僕はこの開発氏という人に非常に興味があるんだけれど、この一橋大新聞部のサイト内のページ(SKの社会を語る)以外で、彼のblogやHP、mixiなど、知っている人がいたら教えてください ^^)


posted by Shu UETA at 13:58| Comment(4) | TrackBack(1) | 天下-その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
取りあえず、前原代表には、GJ(*^ー゚)b  
よくやったと言ってやりたい。 ミケ
Posted by 屋根の上のミケ at 2005年12月11日 19:31
> 屋根の上のミケ さん

 同感です ^^)

 が、心配です ^^;)

 もっとも、前原氏も展望と勝算あってのことだろうと期待したいですが。
Posted by Shu UETA at 2005年12月11日 20:22
>本当に改憲反対や安保問題を思うなら社民党だってあったのだ

そう、だからこそ、健全な政治体制を作るために社会党に風がもう少し吹いて欲しいと思っているのです。民主党を新しい社会党にしようっていう勢力が強すぎかな。再編されることを願うのみですな。当面は、前原氏がどう党内をまとめていくのか見物ですね。
Posted by imaichi at 2005年12月12日 06:52
> imaichi

 社民党は、現状ではもう再起不能に近そうだよね ^^;)
 民主党からグループが抜けて社民党に合流でもしない限りは…

> 前原氏がどう党内をまとめていくのか見物ですね

 まったく。
 心配だね
 そっちの策もないことはないと思うんだけど。
 安全保障の専門家、なんだから。^^)
Posted by Shu at 2005年12月12日 21:05
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