2005年12月04日

「梅干と日本刀」


 実家に帰ると、昔に読んだ本がいろいろとあるわけだけど、何気なくいろいろ手にとってみていると、これも随分以前に読んだもので、「梅干と日本刀」という名著を見つけた。

 名著、と躊躇なく僕は言うけれど、必読書、ともさらに僕は言いたい。^^)

 もっとも、それだけの書であるのだし、また出版当時にはミリオン超のベストセラーにもなっているわけで、今さら僕の薦めなどによらずとも多くの方が既読ではあろうけれど。^^;)



 さて、今さら「日本人とは何か」といったことにあまり躍起になるのも自意識過剰のきらいが臭い過ぎる場合も無きにしもあらずかもしれないが、しかし、明治の維新以来さらには昭和の敗戦等を経て今日まで、その特異な歴史的経緯によるある種の積極的断絶志向もあってか、日本は自らの歴史、過去について今日あまりにも疎い面もある。

 本書は、日本人論であるとか文化論あるいは歴史書といったような大上段に構えたものでもなければ、アカデミックな固い書物でもない。
 むしろ、さまざまなトリビアとエピソードで構成された読み物的な本だ。

 しかしここで紹介されるさまざまなトリビアは、今日においても各方面に実にさまざまな示唆に富む、「日本的知恵」の宝庫であって、僕自身も、再読しながら今さらにさまざま考えさせられもし、また新たな発想ネタを書き留めるハメにもなっている。

 筆者自身が繰り返し気にしているように、一見すると、日本人の素晴らしさを高言し、何程かナショナリズム的な印象を感じてしまう人もいるかもしれないが、それはむしろ常にそうした色眼鏡をかけている人に限られるだろうのであって、筆者の意図は左様なところには全くなく、僕の感覚では、いわゆる温故知新のタネともなり得る事物の豊富な紹介といったものだ。

 僕自身は、国土環境(美観も含む)の問題について、そして社会構造における住民自治・共済の制度とそこに乗る小さな政府、また、社会における擬制家族的制度といったことについて今回あらためて思索のヒントを得た。

 とは言え、これではなかなかイメージも湧き難いだろうので、参考までに目次を紹介しておこう。

 
1章 日本には古来、すごい"科学"があった
   〜意識せずに、合理的な生活をしてきた日本人
 関東の防風林は、なぜケヤキなのか?
 水圧を見事に殺す釜無川の信玄堤
 "征服"でなく"順応"するのが日本人の知恵
 三十三間堂を七百年保たせた"波に浮かぶ筏"の構造とは?
 玉川上水〜驚くべき漏水止めの知恵
 一千分の一しか狂いのない伊能忠敬の日本地図
 地震があっても城の石垣が崩れない秘密
 ゾリンゲンのナイフに応用された日本刀の技術
 日本刀の切れ味は、焼入れの水加減に秘密がある
 米偏重が生んだ日本人の食生活の知恵
 "日の丸弁当"は超合理的な食品
 信玄味噌が四百年間の保存に耐えた理由
 味の分類は、西洋四味、中国五味、日本は六味
 日本の料理学校は世界でもっとも古い
 なぜ日本酒にかぎって、温めて飲むのか

2章 驚くべき"自然順応"の知恵
   〜それは、日本人の鋭い観察力がもたらした
 なぜ、日本の城郭だけが水で囲まれているのか
 なぜ、紀貫之は大阪から京都まで二十日近くかかったのか?
 古代人の便所は水洗式であった
 驚くべき校倉造りの貯蔵法
 平安時代に水虫はなかった
 蓑は日本の風土に適したレインコート
 なぜ、タクワンがすぐれた消化促進食品なのか?
 十二単衣は贅沢から生まれたのではない
 飢饉用の食料として植えられた彼岸花
 柿本人麻呂は川の音から嵐を予知した
 江戸町内の防火はブロック方式だった
 平安貴族はほとんど身体を洗わなかった
 紫色の布が梅毒を治した!?
 五節句は農業スケジュールに合わせて作られた
 中国に逆輸出した日本の鍼灸術
 性生活を国家の基本単位とした古代人
 ミリメートルの段差で灌漑した登呂の古代人

3章 日本人は"独創性"に富んでいる
   〜外来文化の"モノ真似上手"は、皮相な見方
 外来文化に触発されて新文化を築く
 ズボン着用の古代人が、なぜ着物を創ったか
 "袂"が考案された理由
 日本帯の原型は元禄時代に作られた
 着物の美しさのポイントは背面の美しさ
 日本帯は内蔵の働きに好影響をもたらす
 畳はすぐれた保温性マットレス
 なぜ、東大寺大仏殿は倒れたことがないのか?
 不美人(ブス)の語源はトリカブトの毒
 猛毒の彼岸花を、なぜわざわざ輸入したのか?
 日本の家畜は、すべて渡来種である

4章 住みよい"人間関係"を作った日本人
   〜日本こそ、"女尊男卑"の国だった
 日本語の日常用語は世界一の十四万語
 人間関係をスムーズにしている敬語と卑語
 三行半を出すのは、ほとんど不可能だった
 結納とは、日本が女系社会だった名残り
 家紋は、帯の結び目に由来する
 なぜ、古代日本は女尊男卑だったのか?
 冠婚葬は村落共同体を再確認する儀式
 女性を仕事から解放する目的もあった五節句
 相撲は豊作祈願の信仰から起こった
 魂の再生産を目的とした切腹の様式
 女七十八人に一人が娼婦だった江戸
 村八分を非人道の極というのは間違い
 近代思想の悪の根源はエゴイズム

5章 東京 顔負け! "江戸"の驚異的な都市計画
   〜あらゆる災害に備えて造られた江戸の街
 家康の綿密な計画で造られた江戸
 なぜ東京の地理はわかりにくいのか
 江戸の道路は螺旋状に造られた
 城の役割を果たした増上寺と寛永寺
 完璧ともいえる五街道の守り
 なぜ甲州街道だけが直線道路なのか
 江戸前とは皇居前の蒲焼きのこと
 なんと、地下水道の長さは約六・五キロ
 サイフォンの原理で、水は江戸城内に達していた
 庶民の避難場所でもあった大名屋敷
 防火帯として青桐を植えた庶民の知恵
 鯨船という避難用の千石船も常備されていた
 「江戸は世界一美しい都市」という宣教師の記録
 "いろは四十八組"にみる消防制度の計画性
 江戸っ子が「宵越しの金を持たない」理由
 救米を蓄えた浅草の"お救い小屋"
 元禄時代、すでに江戸の人口は世界一だった
 なぜ、三代住むと江戸っ子になれたのか
 江戸時代は完全な女尊男卑の社会
 遠山金四郎は、知事、警視総監、裁判所長の三役

6章 日本は、江戸時代から"世界一の教育国"
   〜農民は字が読めなかったと考えるのは大間違い
 江戸時代のほとんどの農民は字が読めた
 昌平黌の試験に三度落ちると家督を継げなかった
 藩校二五○、寺子屋は一万以上あった
 「個性の開発」ということでは、現代より優れていた
 寺子屋の月謝は二千四百円くらい
 すぐれた体験教育法だった徒弟制度
 お茶や生花は、花嫁修業ではなく社会教育だった
 生きるための礼法を教えた小笠原流
 瓦版を新聞の元祖と思うのは間違い

7章 意外!日本は古来"ヨコ社会"が土台だ
   〜タテ割り社会を、ヨコ割りの上に重ねた日本の社会
 「士農工商」はヨコ割り社会をあらわす言葉
 武士は名目上の支配者に過ぎなかった
 五人組制度は、戦争中の隣組制度とはちがう
 「忠」を引っくり返して「心中」とした近松
 「一杯やる」と、仲良くなれる日本人
 おかずを隣りの家に分けるという美しい日本の風習
 西洋人には理解できない"お流れ頂戴"
 「だまされるほうが悪い」という言葉は日本にはない
 なぜ、引越しそば、年越しそばを食べるのか
 床屋、銭湯は豊かなスキンシップの場所
 江戸時代の"講"は相互信頼に立脚していた
 「私をお笑いください」という刑の持つ意味は?
 「同じ釜の飯を食う」のが最高の友人だった

8章 日本の文化は、柔軟な"建増し"構造
   〜あらゆるものを貪欲に呑み込んだ日本の重層社会
 雁もどきはコロッケをヒントに作られた
 米を「炊く」のは日本人だけ
 江戸時代すでに、米を九十六種類も品種改良した
 "建増し構造"とは、日本人の強さをあらわす
 日本の味とは醤油の味である
 なぜ関東の醤油は味が濃いのか
 日本人の無頓着さがスキヤキを生んだ
 日本料理の神髄は自然と親しむこと
 奈良時代、すでにできたレンガをなぜ棄てたか
 湿気の多い日本に適した木と紙の家
 ヴェルサイユ宮殿と伊勢神宮のちがいは?
 権力の象徴・東照宮と精神の象徴・桂離宮
 「日本建築には一貫性がない」は皮相な見方
 なぜ高松塚古墳には仏教色がないのか
 「神前結婚、仏式埋葬」は矛盾ではない
 なぜ江戸っ子は祭りが好きなのか
 人口の二倍近い宗教人口の不思議

9章 独創を誇る"日本的経営"の起源
   〜世界無比の配置売薬制や越後屋商法は、どこから生まれたか
 "日本的経営"とは何か
 浄瑠璃寺の無言貿易は人間信頼の証し
 "残った藩札二枚"が明かす赤穂藩の人気の秘密
 世界でもっとも古い瀬戸内の月賦販売
 「信用を信用で返す」心が、月賦を流行させた
 相互信頼の極限「富山の薬売り」
 「大福帳」は、世界に例のない信頼関係の象徴
 「大福帳」の信用こそ、日本商法の基本
 画期的!越後屋の「番傘貸し」宣伝法
 越後屋の独創「店前現銀掛値なし、正札販売、端切れ売り」
 畳敷きの越後屋は相互信頼を培った

10章 日本企業の驚くべき柔軟性の原体
   〜"擬制家族制"の厳しさと優しさが危機乗り越えの秘密だ
 白木屋再建史は、日本人の驚くべき活力の歴史
 日本人しか言わない「ウチの会社」は温かさの表現
 花魁は当時、最高の教養を備えていた
 主人が飢えても丁稚に食べさせた商家
 「企業全体が一つの家族」はアメリカでも歓迎された
 終身雇用制は企業に柔軟性を与えている
 無能な長男を勘当にした厳しい商家経営
 日本のコネは擬制家族の延長線
 縁故は開放的、学閥は閉鎖的
 不正を少なくする連帯責任制の知恵
 社内結婚は、職場の人なら信用できる証拠
 能力評価の「祝儀」がボーナスになった
 菅原道真の「和魂漢才」に学ぶべき真の「和魂洋才」

11章 適応力抜群の日本のビジネスマン
   〜脱落者も救いあげる万全の人格教育がそれを育てた
 「恥ずかしくない子に育てる」が日本の教育
 「お宮参り」は社会参加の儀式
 光源氏は女性との接し方を先輩に習った
 若者宿、娘宿での性教育は人格教育の一部
 略奪婚、売買婚、接待婚は日本にもあった
 結婚は連帯意識の確認行為でもあった
 新参者のこだわりを振り払う「泥んこ祭り」
 かずかずの通過儀礼は人格教育の最高の機会
 節句などの年中行事も連帯感を高めた
 「暖簾開き」は今日の創立記念式
 「所払い」による社会からの脱落は死を意味した
 村祭りは性開放の日
 近代化が素晴らしい教育システムをねじ曲げた

12章 古来、計画性に富む日本の職業教育
   〜"家"の経営こそ、すべての経営の出発点だった
 タンスの金具に誇りを持つ職人気質
 染物の傑作、友禅も無名の職人技術の賜物
 無宿者を救った香具師の組織
 日本人は復帰回帰の民族である
 結婚式の形式の混乱は超近代化を示唆している
 「無私」意識は個人の転落を防いだ
 客を他の店に紹介する大阪商法
 家政権を譲る儀式「箆渡し」
 娘と後家には性の管理者がいなかった
 日本的経営の原点のありかは、商家と村落共同体



 ある程度歴史好きで、そこそこ造詣のある人であれば、しかしほとんどは既知の話だろうけれど、なかなかに微妙に考えさせる点もしばしば出てくる。

 トリビア的な豆知識本として楽しむもよし、
 思索のタネを探すもよし、
 もし未読の人があれば、興味によってはぜひご一読を。^^)

 梅干と日本刀



 そういえば、全ったく余談だけれども、本書には、ちょっとした江戸版鬼嫁日記ともいうべきものが、「世事見聞録」から引用されている。(いや、今日のいわゆる例の「鬼嫁日記」の奥方はよほどマシかな)
 これが笑える…というか 妙に想像がつくだけに哀しいともいうべきか…^^;)
 ついでだ、紹介しておこう。

 
 今、軽き裏店(うらだな)のもの、その日稼ぎのものどもの体(てい)を見るに、親は辛き渡世を送るに、娘は化粧し、能き衣類を着て、遊芸または男狂いをなし、また、夫は未明より草履、草鞋にて棒手振りなどの家業に出るに、妻は夫の留守を幸いに近所合壁の女房同志寄集まり、己が夫を不甲斐性のものに申しなし、互いに身の蕩薬なることを咄し(はなし)合い、また紋かるた、めくりなどという博奕(ばくち)をいたし、或は若き男を相手に酒を飲み、或は芝居見物、その外、遊山初参りに同道いたし、雑司ヶ谷、堀の内、目黒、亀井戸、王子、深川、隅田川梅若などへ参り、またこの道筋、近来料理屋、水茶屋の類、沢山に出来た故、これ等へ立入、また二階などへ上り、金銭を費してゆるゆる休息し、また晩に及んで、夫の帰りし時、終日の労を厭いやらず、却て水を汲ませ、煮焚(にたき)を致させ、夫を誑かし(たぶらかし)、賺して(すかして)使うを手柄とし、女房、主人の如く、夫は下人の如くなり。たまたま、密夫などなきは、その貞実なるを恩にきせ、これを嵩ぶり(たかぶり)、これまた兎にも角にも気随我儘なり。

posted by Shu UETA at 17:27| Comment(2) | TrackBack(1) | 読書他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おぉ、面白そうな本ですね〜
これは読んでみたいです。
近々買って読みたいと思います(^^)
Posted by kajuru at 2005年12月05日 02:42
> kajuruさん

 おもしろいですよ ^^)

 どこからでも読めるし、ちょっとしたお暇の折にも最適かもしれません。
 気が向いたら、ぜひお試しを。^^)
Posted by Shu at 2005年12月05日 14:24
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